不幸自慢
ユラは幾度となく繰り返す厄災の神の端末としての人生に飽いていた。
その行きついた先が『滅亡ルートしかないクソゲー世界』だ。私が転生せず、あのままの運命をたどっていたら、きっと彼の望みは叶っていたのだろう。
「世界の滅亡がご不満なら、聖女の君が僕を滅ぼしてよ。君が魂の一かけらも残さないくらいに分解してくれれば、万に一つでも死ねるかもしれない」
ユラはセシリアの前に跪いて、その手を取る。
狂気に満ちた黒い瞳は本気だ。
自分の運命がよっぽど呪わしいんだろう。その気持ちはわからないでもない。
縋り付かれたセシリアも、彼の手を振り払えず瞳を揺らす。
でも……!
私は思わず一歩前に踏み出した。
「うっさい、あんたの無理心中に私たちを巻き込むな」
そんなクソ主張認められるか。
「あんたの生い立ちはかわいそうだと思うけど、だからってはいそうですかって一緒に死んでられないから」
割って入られたユラは不快そうに眼を細めた。
「ふん、君に僕の何がわかるの」
「わかんないよ、邪神の化身の気持ちなんて。でも逆に聞くけどさ、あんたに私の何がわかるの?」
私はずいっとユラに詰め寄った。
「あんたに、人生一度も健康だったことのない子供の気持ちがわかる? 自分が絶対大人になれないって診断された子供の絶望がわかる? 何をやってもどうあがいても、一か月後には死ぬんだって確信した人間の覚悟がわかる? 死んで逃げたくても親がどれだけ自分の生を願ってるかわかるから、自殺もできない苦しさがわかる?」
私は無理やりセシリアとユラの間に立つ。セシリアはびくっと体をふるわせた。
彼女は優しいから、強い感情をぶつけられるとどうしても引きずられてしまう。
今彼女の心を守るのは私の役目だ。
「ユラは人生に終わりがこないことを不幸だって嘆いてたけど、私からすれば長生きできるあんたはすごく恵まれてる。ねえ、十八で死んだ私はすごーく不幸だから、長生きできるあんたを殺していい?」
「はあ?」
私の提案に、ユラはぽかんとした顔になった。
「殺していいわけないよね?」
「……」
「不幸自慢に意味なんかないんだよ。自分が不幸でかわいそうだからって他人に何してもいいわけないじゃん」
どうしようもない不幸を背負わされたのが、自分だけだと思うなよ?
死ぬ間際まで、私がどれだけ運命を呪ったかなんて知りもしないくせに。
家族に心配かけないよう笑顔を取り繕いながら、どれだけの言葉を飲み込んできたのかなんて知らないだろ。
「不幸を他人を傷つける免罪符にすんな。どんな経緯があったとしても、私はユラのやったことを絶対許さない」
「僕が君を直接傷つけたことってあったっけ?」
「そもそもクライヴを洗脳してハルバード家をめちゃくちゃにしてたのはユラじゃん。それに、獣人を捕らえて奴隷にしたのも、カトラスの闇オークションで人を売買してたのも、ケヴィンの婚約者たちに殺し合いをさせたのも、だいたい全部ユラでしょ。さんざん人の人生を壊しておいて、今更不幸ぶるな!」
十八で死を経験した人間をなめるなよ?
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