踏み込むべき一歩
私とセシリアのふたりをソファに座らせると、ヴァンは不機嫌そうにこっちを睨んできた。
「お前らがユラのことで何か秘密を抱えてるってのは、もうわかってんだよ」
ケヴィンも穏やかな彼にしては珍しく不機嫌そうだ。
「たとえ友人であっても話せないことはある。僕らにも明かせない秘密はあるからね。だから、君たちのことには触れないようにしてたんだけど、もう限界なんじゃないかな?」
「う……」
「実際、どうにもならなくなって、困ってんだろ?」
そう言われるとぐうの音も出ない。
私たちはユラを制御しきれなくなって、見失ってしまった。セシリアは真意を探ろうとしていたけど、それもわかっていない。
完全な手詰まりだ。
それは、ユラの強大な力のせいでもあるし、シュゼットや他のことに気を取られて調査しきれなかった私たちのせいでもある。
クリスがぽんと私たちの肩に手をのせる。
「確かに私は考えることが得意じゃない。でも、ふたりのためにできることはゼロじゃないと思ってる」
「別の角度から考えたら、答えが出ることだってあるよね」
「ぐじぐじ考えてねーで、俺たちを巻き込んで頼れよ」
そう言ってもらえるのは嬉しい。
でもこの問題は……。
「わかりました。話し……ます」
「セシリア?」
迷う私の隣で、セシリアが決断した。
「リリィ様も新学期が始まった時に言ってたじゃないですか。私もこれからは頼れる仲間を作っていくべきだって。今ここでヴァン様たちを拒絶したら、きっとこの先誰も頼ることなんてできません」
いつも泣きそうな顔でうろたえていたセシリアは、きっと顔をあげる。
「彼の事情を話しても、それでも明かせない秘密はまだあります。どうしても言えないことだって……それでも、頼っていいですか? 助けてください、って言っていいですか?」
セシリアの問いに、三人は頷く。代表してヴァンが言葉をくれた。
「いいぜ、話せよ」
「ありがとう……ございます」
セシリアは大きく深呼吸してから、ユラの本当の素性を口にした。
「……ユラの本名はユラ・アギト。アギト国の第六王子です」
「はあ?! アギトの王子?」
アギトのスパイくらいは予想してても、王子だとは思いもよらなかったらしい。ヴァンが声をあげた。ケヴィンも目を丸くする。
「ええ……王族をスパイとして敵国に送り込んできてるの?」
「いやでも、六番目なんだろ? 継承権が低い捨て駒だと考えればアリなんじゃないのか」
「アギト国は末子相続の文化だから、次期国王はユラよ」
「マジで?!」
再びヴァンが声をあげた。
「国王どころか、国内で一番権力を握ってるのはユラでしょうね」
「それはおかしくない……? そんな重要人物、今ここで処刑されたら国が大混乱だよね」
ケヴィンも信じられないようで、目を丸くしている。セシリアがふう、と疲れたため息をついた。
「処刑されない自信があるんですよ」
「劇場にすし詰めにされていた観客数十人を、魔力だけの力技で消し炭に変えたことがあるからね。並の騎士じゃ戦う前に消されて終わりよ」
「なるほど……だからいつもセシリアが一緒だったんだね。他の生徒に手出しさせないために」
こくん、とセシリアが頷いた。
「でも、これはチャンスなんじゃねえのか?」
ヴァンが眉をあげる。
「留学直前になって、あいつをねじこんできたのは王妃なんだろ? うまくすれば、アギトのスパイを送り込んだ国賊として、王妃個人を告発することが……」
「それは無理」
彼の提案を私はすっぱり切って捨てた。
「さっき、セシリアが『それでも明かせない秘密がある』って言ったでしょ。私とセシリアは、ユラがアギトの王子だって知ってるけど、何故そんなことを知っているのか、明かすことはできないのよ。そんなことをしたら先にセシリアの人生が終わるわ」
「ユラと王妃を告発するには、別の証拠が必要。そういうことだな」
うむ、とクリスが頷く。
「令嬢ひとりの人生と国とどっちが……とは言えないよね、ヴァン?」
「わかってるよ」
ヴァンは惜しそうにしながらも頷く。
「まず当面の問題は、ユラの行方ね」
私はふう、と息を吐いた。その隣でセシリアがぎゅっと拳を握る。
「ユラが留学してきてから、ずっと一緒にいましたけど、彼が何を考えているのかさっぱりわかりませんでした。何をしたいのかも……」
「なら、これから推理してみようぜ。俺たちで」
ヴァンがにやっと笑った。
「うーん、推理で結論が出るかな……」
「この中で一番トラブル経験があるのはリリィだろ。今までどうしてきたんだ」
うっ。
さすがヴァン。的確に痛い所をついてくる。
「そ、そーいう考える仕事はフランの担当だったから……」
「あいつはお前を甘やかしすぎだ」
これは甘えじゃなくて、適材適所だと思うの!
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