行先不明

「見失ったって、どういうこと?」


 自室で休憩中だったフィーアも加えて、三人で女子寮の階段を降りながらセシリアに尋ねた。彼女は青い顔で説明を始める。


「研究棟の薬品に悪戯しない、という約束で今日は図書室につきあうことになっていたんです。しかし、時間になっても彼が現れなくて」

「ユラのきまぐれはいつものことじゃない?」

「彼は思い付きでバカな提案はしますが、私との約束は破らない……というより、破れないはずなんです。不審に思って辺りを探しても見つからず、学園全体を魔力で探知したのですが、彼を発見できませんでした」

「この広い学園全部を探知したんだ?」


 なんかさらっとすごいこと言われた気がするんだけど。

 まあ、相手はセシリアだし、やろうと思えば本当にできるんだろう。


「彼はこの学園の敷地から出ない、という約束をしています。それが破られた気配はないので、どこかにはいるはずなのですが」

「ユラが本気で逃げ隠れしているのなら、厄介ね。セシリアが見つけられないものを、一般人が見つけたりできないわ」


 女子寮を出て、研究棟に足を向ける。


「まずはジェイドに協力させましょ。探知能力だけならセシリア以上だもの」

「そうですね……」


 急ぎつつも、淑女の品位を保ちながら廊下を歩く。校舎のすぐそばまで来たところで、見慣れた銀髪の少年少女と出くわす。ヴァン、ケヴィン、クリスの銀髪トリオだ。


「セシリア、リリィ!」


 三人は私たちを見るなり声をかけてきた。


「みんなそろってどうしたの?」

「どうしたのはこっちの台詞だよ」


 ケヴィンが珍しくむっとした顔で答える。


「セシリアが血相変えて走っていくから、気になって追いかけてたんだ。何かあったの?」

「それ……は……」


 セシリアが視線をさまよわせる。

 何かあったといえばあったんだけど、ユラがいなくなったとストレートに伝えていいものか。状況を説明しようと思ったら、ユラに関する全てを話さなくてはならなくなる。

 しかしユラとセシリアの事情は聖女の事情だ。


「ったく、こいつらは……クリス!」

「了解」


 ヴァンが言うと、クリスはがしっと私とセシリアに腕を回した。右にセシリア、左に私、クリスは片腕ずつで私たちをホールドしてしまう。


「連れていくぞ」

「わかってる」

「え、ちょっと、クリス? はなしてよ!」

「だーめ。今自由にしたら、ふたりとも逃げるだろ」

「だからって……」


 ずるずると否応なく引きずられる。

 これがただの襲撃者なら、フィーアがすぐに割って入るけど、相手はクリスだ。どう手を出していいかわからず、フィーアもおろおろと私たちを見守るしかない。


「いいから来いって」


 強引に連れていかれた先は、ディッツの研究室だった。三人は私たちをいつものソファに座らせると、自分たちも向かいに座る。


「さて、全部吐いてもらおうか?」


 何を?


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次の更新は12/24です!

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