お姫様は悪役令嬢と仲良くなりたい
「リリアーナ様!」
学園の廊下を移動していると、後ろから声が追いかけてきた。
振り向くと制服姿のシュゼット姫が小走りでやってくる。その後ろには彼女についてゆっくり歩くフランの姿もあった。
「シュゼット様、どうされました?」
「算術の授業が休講になったと伺って、お探ししておりましたの。次の魔法学の授業まではお暇でしょう? 一緒にお茶を召し上がりませんか?」
シュゼット姫は期待に目をキラキラ輝かせながら私を見つめる。私は答えるべき言葉を探しながら、あいまいにほほえんだ。
同じ女子寮で学園生活を始めてから数日。シュゼットはいつもこんな感じだ。毎日毎日、私がどこで何をやっていても、追いかけてくる。
追いかけてくるだけじゃない。
講義室では必ず隣に座るし、食事のタイミングはいつも一緒。隙あらばお茶に誘うし、三日に一度は王都観光のお誘いがある。
あの王妃の親戚、ということもあって警戒してたんだけど、まさかこういう方向で接触されるとは思わなかった。
見ている限り悪意はなさそうなんだけど、必ず後ろにフランを連れているせいで、どうしても複雑な気分になってしまう。常にフィーアを連れている私が、護衛兼世話係のフランを連れて歩くなとは口が裂けても言えないし。
「申し訳ありません、この時間はクリスと一緒に騎士科の戦闘訓練を見学する約束をしているんです」
私は用意していた言い訳を口にした。
クリスとの約束は本当だけど、目的は別だ。ずっとシュゼットにべったりくっつかれている私を息抜きさせようと、気をきかせてくれたのだ。
「まあ、騎士の戦う姿を見学なさるんですか? 恐ろしいでしょうに……」
シュゼットは青緑の瞳を見開く。
うちの脳筋姫様と違って、箱入りのお姫様は戦闘訓練なんて野蛮なものには近寄ろうとしないはず。次の授業まででいいから、休憩させてくれ。
「私は父の鍛錬で見慣れておりますから。では、魔法の授業まで少しお暇を……」
「私もご一緒させてくださいませ!」
なんでや。
シュゼットは気合をいれているのか、両手の拳を固めて頬を赤くさせる。
「お忙しいリリアーナ様がわざわざ足を運ぶということは、意義のあることなのでしょう? 私も共に学びたいです」
「ええと」
いやそんな大層なもんじゃないですけどね?
「シュゼット様……無理をして倒れたら、午後の授業が受けられなくなりますよ」
フランが表向きシュゼットを気遣う形でやんわり止める。しかしやんわり程度の言葉では彼女は止まらなかった。
「もちろん、リリアーナ様にご迷惑をかけることはしませんわ」
「いやでも」
「気分が悪くなったら、すぐに退席いたします。端で見ているだけでいいですから……!」
うるうる、と上目遣いで見つめられること30秒。
「……………………わかりました」
「ありがとうございます!」
私が了承すると、シュゼットはぱあっと顔を輝かせた。いそいそと私に並んで歩き始める。ちらっと後ろを見ると、フランがこっそり肩をすくめていた。
いやだってしょうがないじゃん!
悪意があるならともかく、ただ『仲良くなりたい!』ってアタックしてるだけなんだもん! こんなにまっすぐ好意を向けられて、無碍に扱えないよ!
「訓練は少し怖いですけど……ハーティアの騎士候補生には興味がありますわ」
「そんなにこの国が気になりますか」
「ええ……ここ十年ほど、わが国にはあまりハーティアの情報が入っておりませんでしたから」
「そうなんですか?」
一応表向きは友好国なんだけどね?
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