富国強兵
「これはもしかしたら、の話なんだけどね」
クスクス、といたずらっぽく笑いながらケヴィンは説明を始める。
「リリィと王子の婚約は王妃様の意向なわけだよね。宰相閣下やハルバード侯がそれに異議を唱えられないのは王妃……引いてはキラウェアと対立できないからだ」
「まあ……そう、ね」
だいぶヤバい言いまわしがあったけど、とりあえず突っ込まないでおく。
「でも、国全体の軍事力が上がって、キラウェアと対立しても平気……となったら宰相閣下たちの意見は通りやすくなるんじゃないかな?」
「理屈としては、そうなると思うけど……」
子供の結婚のために、国全体を動かしちゃうのは親としてどうなの。王族の結婚って政治的に大きな意味を持つと思うんだけど。
「だーかーらー、政治的に解決しようってんだろ、大人連中はさ」
ヴァンもケヴィンの推理に賛成らしい。確かに筋は通らなくもないけどさ。
「い、いいのかな……こんな私的なことで国を動かして……」
「いいんじゃね? お前の結婚話は宰相家の後継問題にも関わってんだから。充分国にとって重大事だって」
そういえば私とフランの結婚は、兄様とフランの姉との結婚でもあったんだった。私とフランが結婚できず侯爵家を継げないままでは、マリィお姉様が兄様を婿にとって女宰相になれない。
ケヴィンも苦笑する。
「そもそも、王妃に気を遣ってばかりの宮廷情勢がよくないしねえ」
「国を安定させるには、どっちみち東西両方の隣国と張り合う力をつける必要がある。お前らの話がなくても、いつか同じことになってただろうよ」
つまりこの富国強兵は必然だった、ということだ。
「わかった。じゃあ……みんなが強くなって、政情が変わるのを待ってる」
「まかせて」
にこっとケヴィンが笑う。
それを見て私は胸が熱くなるのを感じていた。
一年前、無理矢理王子と婚約させられた時には、ショックすぎて何も考えられなかった。でも、今は違う。頼りになる友達がたくさんいて、大人たちも自分のことを大事に想ってくれている。まだ、私の未来は変えられるはず。
「リリィ様は大事にされていますね」
セシリアが羨ましそうに笑う。私はパン、とその背中をちょっと強めに叩いた。
「何言ってるのよ。あなたも私の友達じゃない。ダリオにとっても妹なんだし」
「え……あ……?」
「セシリアは変なところで他人行儀なんだよなあ」
クリスもセシリアに肩を回す。
「私とは友達じゃないなんて言ったら怒るぞ」
「それは……そのっ……!」
「つまり、あなたにだって味方はたくさんいるし、切り開ける未来はあるってこと」
聖女になる運命があるからって、人と距離を取ってたら解決できる問題も解決できない。
今年からはセシリアにも自分で味方を作っていってもらわなくちゃ。
「は……はいっ! が、がんばります……!」
よしよし。
俯いてばかりじゃ、いい未来なんて来ないもんね。
顔を上げたセシリアのかわいい顔を眺めてなごんでいたら、急に生徒がざわついた。彼らの視線を追うと、校舎のほうから誰かやってくる。
キラキラと輝く金髪の少年と、アッシュブラウンの少年。オリヴァー王子と従者のヘルムートだ。
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