それぞれの夏休み
制服に着替えたクリスとセシリア、そして護衛のフィーアを連れて王立学園の入り口に向かうと、すでに多くの生徒が留学生の出向かえに集まっていた。その中に銀髪の少年二人組を見つけて、声をかける。
「ヴァン、ケヴィン!」
銀髪コンビのうちのひとり、女子受け抜群の美少年が柔らかくほほ笑んで振り返った。モーニングスター家の末っ子長男ケヴィンだ。
「ひさしぶり。みんな元気そうだね」
「ケヴィンも元気……というか、ちょっとたくましくなった?」
「夏休み中、ずっと騎士に混ざって訓練してたからね。少しだけど筋肉がついたんじゃないかな」
「かっこよくなったと思うわよ」
「ふふ、ありがとう」
私たちがにこにこ話していると、すぐ横でもうひとりの銀髪少年が大きくあくびした。次期クレイモア伯でありクリスの婚約者のヴァンだ。
「お前らか……ふぁ」
「ヴァンはずいぶん眠そうね」
「俺も休みの間は、ずっとクレイモアで訓練漬けだったからな。体を酷使したせいで眠くて眠くて……」
よく見たら、ヴァンは随分くたびれていた。一応制服は着ているけど襟はよれてるし、上着のボタンも半分くらいしか留めてない。カジュアルファッションというより、単に疲れて雑になっただけっぽい。
「手加減メニューのはずだったんだがな?」
「クレイモアは基準がおかしい」
東の国境を守るクレイモアは、ハーティアの中でも特に腕自慢の脳筋騎士が集う場所だ。そもそもの訓練基準が全国平均レベルとズレている。わけあって数年前までお姫様生活をしていたヴァンがぼやいてしまうのは当然だ。
「まあでも、訓練した甲斐はあるんじゃない? 学期末に比べて厚みが増えたように見えるわよ」
「……これくらい成果がなくちゃ、やってらんねえよ」
ふわぁ、とまたヴァンはあくびする。
「こっちにいる間は、休ませてもらうぜ。じいさんのしごきに比べたら、学校のほうがまだマシだ」
「みなさん大変だったんですね。そういえば、私が帰省したカトラス侯爵領もダリ兄を筆頭に軍事訓練に力をいれてるようでした」
「ハルバードも似たような感じね。父様が騎士団長をしている王都の第一師団も巻き込んで、大規模な軍事演習をしていたわ」
「ハーティアは今、宰相閣下主導で全国的に富国強兵策を進めてるところだからな」
「……何か、あるんでしょうか?」
ヴァンの富国強兵策、の言葉に反応してセシリアが不安そうな顔になる。ゲームの通りなら、私たちが学園に在籍する三年間のどこかで厄災が起きる。救世主としてその予兆に敏感になってしまうのだろう。しかし、ヴァンは首を振った。
「何かあるっつーか、あった、ってのが正しいな。スパイ騒ぎやら汚職騒ぎやらのせいで、あちこちガタがきてたから。各地の軍を鍛え直して、あらためて敵勢力に備えようってっことなんだろ」
「うちの国は、東にも西にも火種を抱えてるもんね……」
「もしかしたら全部リリィのためかもしれないよ?」
「はぁ?」
突然ケヴィンに名前を出されて、私はぽかんと口をあけてしまった。
富国強兵策が、なんだって私に関係してくるんだ。
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