問題だらけの救世主

「セシリアって、何か問題あったっけ?」


 ショックでその場に崩れ落ちるセシリアを、クリスが不思議そうに見る。特別室でのんびり過ごしているうちに、彼女もセシリアの問題を忘れてしまったらしい。


「たくさんあるわよー。そもそもセシリアの実家は地方とはいえそれなりに格式の高い子爵家で、ご両親亡きあと婿をとって家を継ぐことが決まってるわ」

「ふむふむ、領地つきの後継ぎ娘というわけだな」

「彼女を保護しているカトラス侯爵家との関係は良好。その上、全教科ぶっちぎりトップの才女で、去年の学年演劇で聖女役を務めて社交界の注目を集めた美少女……となると、男子生徒が放っておくわけがないのよ」


 家柄、財産、地位、能力、美貌と貴族女子に求められる能力のほとんどを持つ女の子だ。これで興味を持つなというほうが無理な話だ。


「婿入り希望の貴族次男坊以下はもちろん、既に婚約者のいる男子や格上の後継ぎ息子までセシリアを狙ってるって話だからねえ」


 だというのに、本人の性格は気弱な引っ込み思案。

 ひとり歩きさせようものなら、強引な男子にどんなアプローチをされるか、わかったもんじゃない。それに、気を付けなきゃいけないのは男子だけじゃない。これだけ男子人気が高いと、どうしたって女子から嫉妬の的にされる。去年侯爵令嬢誘拐未遂の罪で逮捕されたアイリスみたいな強烈ないじめ女子はいないけど、やっかまれて何かしらトラブルになる可能性はある。


「人付き合いがうまくないんだから、まだしばらくは私やクリスの側にいて守られてたほうがいいんじゃないの」

「……はい」


 セシリアはしゅん、とうなだれる。

 ……まあ、この状況も本当は良くないんだけどね。

 彼女は『恋する乙女パワー』を根源とする聖女だ。誰かに恋をしてこそ、真価を発揮する。近い未来に厄災が訪れることを考えたら、いつまでも男子と距離をとっているわけにはいかない。いつかは誰かを選んでもらわないと、世界が滅ぶ。

 とはいえ、運命に怯えまくって震えてるセシリアを無理やり男子のところに引っ張って行っても、状況が悪化するだけだし。私ができるのは、恋愛恐怖症をこれ以上悪化させないよう保護することくらいだ。

 こんな状況で、恋する乙女パワーが産まれるんだろうか。

 恋愛感情は義務や強制で生まれるものじゃないからなー。自然発生的な感情に世界の運命の鍵を握らせる創造神と運命の女神の意図がわからん。


「納得したなら、ふたりとも自分の部屋に行って制服に着替えてきて。もうそろそろお客が到着する時間だから」

「客?」


 クリスがきょとんとした顔になる。

 地方貴族のセシリアはともかく、王族のクリスには正式な通達があったはずだぞー。


「私たちの学年に、キラウェアからの留学生が来るのよ」

「西の隣国から……ですか?」


 キラウェア出身の王妃一派と国内貴族の軋轢を知っているセシリアが訝しむ。


「内情はどうあれ、表向きは王族の婚姻で結ばれた友好国だからね。お互いの文化を学ぶために、王立学園に留学生が来るのはおかしい話じゃないわ」

「でも……」


 説明しても、セシリアの表情は暗い。まあ、気持ちはわかるけど。


「あなたも私も『想像してなかった』登場人物よね」


 女神のつくったゲームには、西の隣国キラウェアからの留学生、なんてキャラクターはいなかった。完全にイレギュラーな人物だ。

 私が運命を曲げて回ったせいで、新たに産まれた出会いなんだろう。

 当然のことながら、彼らに関する情報は女神の攻略本を持つ私たちでもわからない。


「未来がわからないなんてこと、当たり前なんだから。とにかく会ってみなくちゃ」

「そ……そうですね」

「そのうちひとりは、現国王の三女シュゼット様らしいわ」

「王族じゃないですか……!」


 そして、ハーティア王妃カーミラの姪にあたる。

 鬼が出るか蛇が出るか……って、実生活でこんな言いまわし使う日が来ると思わなかったよ!






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次の更新は、11/5です!


そして、重大発表!

クソゲー悪役令嬢2巻発売決定!

詳しいことは近況ノートにてチェックよろしくです!

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