やらかし悪役令嬢
「やっちゃったあああああ……」
ディッツの研究室に転がり込んだ私は、ふかふかソファにダイブして思いっきりため息をついた。
何やってんだよ私。
穏便に王子を成長させようとみんなで頑張ってきたのに、私が喧嘩してどうすんの。
ソファでじたばたしていると、頭にぽんと手が載せられた。
思わず顔を上げたら、私を見下ろすドリーの青い瞳と目があった。
「疲れとストレスで限界だったんだろう。あの状況ではしょうがない」
「でも……」
「いまだに王妃派を擁護しようとする王子が悪い。この一年、騎士科関係者全員から説教され続けておいて、いまだに物の見方が変わらないのは鈍すぎる」
奴の目はガラス玉か?
と相変わらず辛辣なドリーの台詞を聞いて、思わず笑ってしまう。
ソファに座り直していると、ディッツがひょっこり顔を出した。
「この後の授業はないんだろ? 気持ちが落ち着くまでごろごろしていけよ。そのための避難所だ」
「ありがとう、ディッツ。でも、戻って生徒のフォローしないと」
「待て」
腰を浮かそうとした私の肩をドリーがぐっと押さえた。私の体はソファに逆戻りしてしまう。
「今戻っても、場が混乱するだけだ。事の顛末はヴァンとケヴィンに伝えておいたから、この先はあいつらに任せろ」
「でも……」
「そもそもはお前が疲れていたせいで起きたことだ。教員指導だ、休め」
「……はい」
もう休む、と決めたら急に体が重くなった。自分で思うよりずっと疲れていたらしい。やらなくちゃと思うと、疲労を無視してしまうのは私の悪いクセだ。
「疲労回復に良いお茶をいれますね」
そう言ってジェイドが台所に移動した。興奮して気づいてなかったけど、教室を飛び出した私のフォローをするために、フィーアともどもついてきてくれたらしい。
気遣いのできる従者と侍女バンザイ。
「ご主人様、申し訳ありません……私がついていながら」
お茶を飲んでぼんやりしていると、フィーアが深々と頭をさげてきた。ネコミミが垂れているところを見ると、本気で落ち込んでいるようだ。いつもプロ意識の高い彼女にしては珍しい。
「あなたが謝ることなんてないわよ。フィーアが助けてくれてなかったら、セシリアが大変なことになってたわけだし」
「あの場面では、容器をはじき返さずに、キャッチするのが最善手でした。余計なトラブルに発展した原因は私にあります……」
「いやいやいや、弾いただけでも超反応だからね? あなたにそこまで要求できないわよ」
「……でも、いつものフィーアならできたことだよね」
フィーアの隣でジェイドがぼそっとつぶやいた。フィーアは一瞬反論しようと口を開いて……結局口を閉じた。
「疲れているのは、フィーアもでしょ。君も座ってお茶を飲みなよ」
はい、とカップを渡されて、フィーアは不承不承ソファに座る。今まで自分のことでいっぱいいっぱいだったけど、よく見ればフィーアもちょっと顔色が悪かった。いつものふわふわネコミミもちょっと毛艶が悪い。
「フィーア、ごめんなさいね。いつも私が連れまわしてるせいで……」
「いえ、ご主人様は悪くありません!」
「そうだよね。自分の抱えてるトラブルを主人に報告しないフィーアが悪いんだもんね」
「ジェイド! あんただって同じ状況でしょ!?」
ちょっと待て。
お前ら何を隠してる。
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