モテ期
「フィーア、ジェイド」
私はにっこり笑いながらふたりの名前を呼んだ。
フィーアがびくっとネコミミを立てる。
数年つきあって分かったことなんだけど、このふたり、特にフィーアは私に心配かけまいと自分の怪我や病気を隠そうとするクセがある。忙しい私を気遣ってくれる忠誠心はありがたいんだけど、それで倒れてしまっては元も子もない。
「何を隠しているの?」
「……それは、その。たいしたことでは」
「何人もの男子生徒に求婚されて、つき纏われてるんだよね」
「ぐっ……!」
元々、話をふった時点で暴露するつもりだったらしい、ジェイドがあっさり報告した。フィーアはぎっとジェイドを睨む。
「それは、ジェイドも一緒でしょ? 何人の女の子からラブレターをもらってるの」
「ボクは声をかけられる程度だもん。君みたいに行く先々で掴まれそうになったり、通路の陰に引っ張り込まれそうになったりしてない」
「アタシだってちゃんとかわしてる!」
「ちょっとそれ……おおごとじゃない……」
四六時中男子生徒に絡まれては、気の休まる暇がない。疲れて当然だ。
「どうしてふたりがモテてるの? 確かにふたりとも、美人で有能だけどハルバードにいたころは、浮いた話なんてなかったわよね」
私が不思議そうにしていると、横で聞いていたディッツが笑い出した。
「まあハルバード侯爵のお膝元でバカやる奴はいねえからな。だけど、ここは王立学園だ。直接監督する高位貴族はいない」
「監視の目が緩んだから、手を出す奴が増えたってこと?」
「まあ考えてみろよ、お嬢。お前はこの先何があっても、こいつらふたりをクビにすることはないだろ? つまり、将来の侯爵様だか王妃様だかの側近になるのが確定してるわけだ」
「そう……ね」
すでにふたりは一生ものの側近だ。よほどの事情がないかぎり、私から彼らを手放すことはないだろう。
「しかしこいつらはどっちも庶民出身。爵位はなくとも、いや爵位がないからこそ、これから成りあがりたい商人や役人候補から見たら絶好の獲物なんだよ」
「あー……」
「ボクは男だし、体格もいい方だから強引なことはされないんだけどね。フィーアは一見小柄でおとなしい女の子に見えるから」
フィーアのかわいい容姿は、相手の油断を誘う効果がある。しかし、それは翻せばナメられやすいってことだ。
フィーアのネコミミが、苛立ちまぎれにぴこぴこと揺れる。
「ご主人様の名誉のため、穏便にかわそうとしているのに、あいつらときたら……ああ……いっそもう全員ねじ切ってしまいたい……」
何をだ、何を!
「いや、切るだけじゃ生ぬるい……石臼で挽き潰したい……ごりごりごりって……」
だから何を!
「あなたたちにちょっかい出さないよう、通達を出しましょうか?」
「逆効果だろ~。それだけお嬢にとって大事ってことだから」
「モテる原因は、そもそも私だもんね……」
かといって、ふたりから離れるという選択肢はない。
じっと話を聞いていたドリーが口を開いた。
「いっそ婚約してしまえばどうだ」
君は一体何を言い出すのかな!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます