交流イベント

「リリィ、先に来てたんだな」


 大講堂の椅子に座っていると、クリスとライラが声をかけてきた。彼女たちの後ろには、相変わらず不安そうな表情のセシリアもいる。


「ドリーに用事があったから、ちょっとね」

「東の賢者様の助手……だったっけ。ずいぶん綺麗な方ね」


 ライラに言われて教壇に視線をやると、ドリーが他の教員と打ち合わせしている姿が見える。こうやって働いてる分には、ちょっと美人な女教師にしか見えない。

 ライラたちは、他の講義の時と同じように私の隣に座ってくる。いや……彼女だけ、ちょっと私に体を寄せてきた。


「あの……わかってると思うけど、昨日のアレは……その、気の迷いだから」

「何かあったっけ?」


 昨日のアレとは、アルコールのせいで暴露してしまったライラの秘密だろう。私はわざとそらっとぼける。


「何って……!」


 横で聞いていたクリスが笑う。


「飲み会の秘密は、全てなかったことにする。それもルールのひとつだよ」

「だからあの話はおしまい! 全部忘れましょ」


 私たちが笑っていると、ライラはぷうっと頬を膨らませた。


「簡単に忘れられない秘密をしゃべっておいて、よく言うわ」


 まあ、王子のアレコレについては、知っててもらったほうが動きやすいっていう打算コミで暴露したんだけどねえ。この話を引っ張ると、自分の首も絞めそうなので話題を変えることにしよう。

 私は改めて大講堂を見回した。


「合同授業は今日が初回だけど、さすがに人が多いわね」

「一年生だけとはいえ、騎士科と女子部の生徒が全員集められているからな」


 表向きの目的が生徒間の交流なこともあり、この授業は全員必修だ。大してスキルも身につかないし、正直サボってしまいたいが、そんなことをしたら二年生に進級できない。クリスたちと同じ学年でいたいなら、出席するしかないのだ。

 生徒たちがそれぞれに着席する様子を眺めながら、授業が始まるのを待っていると、急に講堂がざわついた。

 入り口を見るとちょうどオリヴァー王子が入ってくるところだった。彼の側にはヘルムートに加えて、なぜかケヴィンがいる。


「珍しい組み合わせね」

「王子がぼっちのままじゃ困るからな」


 いつの間に入ってきたのか、ヴァンが声をかけてきた。彼は席順が決められていないのをいいことに、婚約者の隣に陣取る。


「授業の間は、できるかぎり俺かケヴィンがつくようにしてるんだ」

「騎士科に影響力のあるふたりが王子に接近したから、空気が変わったのね」


 騎士候補生と王子の間にあった不自然な空白がなくなっている。親しいかどうかはわからないけど、少なくともお互いに声をかけるくらいはできてるみたいだ。


「あそこまで打ち解けたのは、ケヴィンのおかげだな。あいつのふわふわした雰囲気がなかったら、とっくの昔に俺と王子で大喧嘩してたぞ」


 ヴァンがガリガリと頭をかく。

 誰にでもにこにこ顔ができるのはヴァンも一緒だけど、こっちは9割以上外面だからなあ。仮面をかぶり続けるにも限度があるんだろう。

 気配り上手のケヴィンのコミュ力には感謝しかない。


「まあ接した限り、完全なアホっていうよりは箱入り息子なだけっつー感じだから、まだ可能性はあるだろ」


 腐っても攻略対象だからねえ。

 聖女が命を預けるに値するだけのポテンシャルはあるのだ。


「クリス、あとセシリアとライラだったか? 騎士科は俺がなんとかするから、そこの侯爵令嬢をくれぐれも押さえててくれよ?」

「わかった」

「ちょっと待ってよ、何それ!」

「どう考えても、このメンツで一番喧嘩っ早いのお前だろーが」


 失敬な!!

 夫婦そろって私を何だと思ってるんだ!

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