伝説チュートリアル
「授業を始めますよ」
ドリーがパンパンと手を叩きながら、授業開始を宣言した。お行儀のいい貴族子弟たちはすっと会話をやめて教壇に注目する。そこにはドリーの他に、ダンス担当のモントーレ先生と、文学担当のマグナル先生が立っている。全員この授業に必要な先生だ。
ドリーは淡々と授業の解説をする。
「この授業は、生徒間の交流を目的としています。……とはいえ、いきなり交流しろと言われても困るでしょう。そのきっかけとして、あなた方にはひとつ課題が与えられます。毎年恒例ですから、みなさんご存知ですね」
生徒の何人かがこくりと頷く。
女子部ができて、合同授業が始まった時から存在する伝統の課題だから当然だ。
「課題は学年演劇。年度末のパーティーで、ある劇を上演していただきます」
学年全体に大きなイベントを設定し、目標に向かって協力することで交流を図る。現代日本でもよくある手法だ。学園乙女ゲームで言うところの文化祭や演劇祭、体育祭ポジのイベントである。
「演目は、この国に伝わる最も古い伝説のひとつ、『建国神話』です」
これも去年と一緒だから、やっぱり生徒は驚かない。
それどころか、クリスの隣に座るヴァンは面倒くさそうにため息をついた。
「今更建国神話とか、面倒くせえ……」
建国神話は、文字通りこの国ができるまでのお話だ。国のアイデンティティーに関わる話なこともあり、ハーティア国民、特に貴族は繰り返しこの話を聞かされて育つ。現代日本でいうところの白雪姫とかシンデレラみたいな存在だ。
だから、今更一から演じろと言われたところで、出演者も観客も飽きてしまっている。
しかし、飽きたからといってやめてもらっては困るのだ。
「神話を風化させないための大事な教育なんだから、真面目にやりなさいよ」
ゲーム通りなら、神話で語られる荒唐無稽な災害が数年のうちに発生する。そのとき伝説を頼りに厄災の神に立ち向かうのは、他ならないヴァンたち勇士七家の者たちなのだから。
「わかってるって。どうせ舞台の上に引っ張り出されるのは決まってるからな」
ヴァンの言葉を補足するかのように、ドリーが段取りを進めた。
「まず、配役ですが……今年は半数ほどがもう決定しています。まず、建国王にオリヴァー」
いきなり主役が決まったというのに、生徒たちは驚かなかった。この配役も慣例だからだ。ハーティアには伝説に関わる血統がいくつも残されている。在学生に王家と勇士の末裔がいる場合は、そちらが優先的に配役される決まりだ。
だから、他の配役も……。
「勇士クレイモアはシルヴァン、勇士モーニングスターはケヴィン、勇士ランスはヘルムート。以上4名は伝統にのっとり、役を演じていただきます」
「はーい」
「わかりました」
呼ばれた生徒たちは、それぞれに返事をする。
そんな中、私はすっと手をあげた。
「先生、私も勇士ハルバードの末裔です。男装して彼を演じたいですわ」
男装、の提案にいままで静かだった生徒たちがざわついた。
しかし演技指導役のモントーレ先生はにっこり笑って否定する。
「ダメよ、リリアーナ。あなたはオリヴァーの婚約者なのだから、聖女役を演じてもらわなくちゃ」
そんな伝統もありましたね!
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