ネコミミの秘密

「は……え……?」


 私は、目の前の状況が信じられず、何度も瞬きした。

 しかし、何度見直してみてもフィーアの頭にかわいいネコミミがない。普通の人間と同じ、丸い頭のラインがあるだけだ。


「ええええええええ? あのふわふわのお耳は!? チャームポイントはどこに? モフモフカムバック!!」

「リリィ、落ち着きなさいよ」

「落ち着いてられないわよっ! モフモフが……! モフモフが……!」

「すぐに戻せますよ」


 言うが早いか、フィーアの頭にまたネコミミがにょきっと生えた。


「ええええ……」


 なんだそれ。

 安心したけど納得いかない。


「おもしろいな。獣人はみんなそうやって耳を隠せるのか?」

「いえ、おそらく私だけです。これはユニークギフトの応用ですから」


 フィーアのユニークギフトは、『黒猫への完全変化』だ。その変化の過程で、うまく耳の出し入れをしているんだろう。


「そんな風にできるなら、普段から隠してたほうがいいんじゃない?」


 ライラが心配そうに言う。


「確かに……隣にリリィがいるから誰も何も言わないが、フィーアのネコミミを不躾に見ている生徒は多いからな」

「モフモフがって言っておいて、なんだけど……フィーアが隠したいなら、隠していいのよ? そこはあなたの自由だと思うし」


 しかし、フィーアは首を振った。


「どうせ今更です。ご主人様の専属になった時点で、私が獣人であることは周知の事実でした。取り繕ったところで、余計からまれるだけです」

「そうかもしれないけど……」

「それに、この耳はとても便利なんですよ」


 フィーアはにやっと笑った。


「みなさん、私を見るときは必ずこの耳を見ます。私といえばネコミミ、ネコミミといえば私。むしろネコミミで私かどうか判断していると言っても過言ではありません」

「いや誰もそこまでは言ってないと思うけど……」

「これは確定的事実です。そして、ネコミミで認識されている私が、このように耳を隠して歩いていたとして。彼らは果たして、私だと気づけるでしょうか?」

「あ……」


 私たちは言葉を失う。

 普段から目立つアイコンを見せつけておいて、いざという時に隠す。ネコミミという大きな特徴を逆手に取った、とんでもない隠密術である。

 フィーアをネコミミで認識している他人はもちろん、顔をよく知っている私たちでも気づかない可能性は高い。


「内緒ですよ」


 にっこり微笑まれて、私たちは降参する。

 これはとんでもない秘密を知ってしまった……!


「次はどなたの秘密にしますか?」

「う~ん……」


 今秘密を話していないのは、私、ライラ、セシリアの三人だ。

 私はカップに残っていたお酒を飲み込んでから口を開く。


「じゃあ、ちょっと重めの秘密を……。私と王子の婚約は、王妃の策略によるものだわ」

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