教室は戦場だった
「何これ……」
講義室に入るなり、私は思わずつぶやいてしまった。
魔法は重要な戦術のひとつのため、魔法基礎は騎士科1年生の必修授業だ。だからここには、騎士科生徒がほぼ全員そろってるはずだ。
そんな中、講義室の最後尾でヴァンが、最前列で王子が仏頂面で座っている。
彼ら以外の一般生徒はというと、友達同士のグループを作りながら、全体的に部屋の奥よりに座っていた。王子の周りだけ、キレイにドーナツ状の空白ができていて、ヘルムート以外誰もいない。
アイリスたちと対立してる私が言うのもなんだけど、騎士科の雰囲気やばくない?
王室と勇士七家のひとつがあからさまに対立してるとか、まずいでしょ。一般生徒が全然王子に近寄ろうとしてないのも問題だし。
何がどうしてこんなことになってるの。
そして、こんな状況で私とセシリアはどこに座って授業を受ければいいの。
顔だけは笑顔を張り付けたままだけど、背中になんか嫌な汗をかいてる気がする。制服の生地が分厚くてよかった……じゃなくて!
「ヴァン」
判断に困っていると、一緒に入ってきたケヴィンがヴァンに声をかけた。むっつりした顔で窓の外を眺めていたヴァンの紫の瞳がこちらに向けられる。
「ああ、お前らか」
「さっき廊下で会ったから、一緒に来たんだ」
「こっち来て座れよ。クリスの話も聞きてえし」
「そ、そう……ね……」
ケヴィンにも促されて、私は教室の奥へと足を向ける。
ヴァンとはクリスも含めて友達だから、一緒に授業を受けるのは普通の話だ。
でもこれ、婚約者の王子を無視することになりませんかねぇー?!
この状況で彼にどう声をかけたらいいかも、わからないんですけどね?
案の定、私が教室の奥へと移動しはじめたとたん、ヘルムートが席から立ち上がった。
「お前……」
睨まないで!
余計そっちに行きたくなくなるから。
座ったままの王子も、私に鋭い目を向ける。
「お前はそっち側なのか」
「……意図をはかりかねます」
だってそもそもハルバード家は宰相派だし、ヴァンとケヴィンとはずっと前からの友達だし、パーティーで一言求婚されただけの王子様よりずっとこっち側ですけどね?
問い詰められても困るんですよ!
王子も席を立とうとした瞬間、一般生徒たちが動いた。それぞれが、誰と相談するわけでもなくすっと私と王子たちの間に入る。
彼らの視線は王子に向けられていた。私はその背にかばわれた恰好だ。
えっと……騎士科のみなさん?
そこの王子様は、君たちが将来仕える予定の君主様ですよね?
王子より先にその婚約者守っていいの?
「貴様ら……」
王子の目がつりあがる。
何かを言おうとした瞬間、パンパンと手を叩く音が講義室に響いた。
「静粛に、授業を始めますよ」
振り向くと、男性の担当教官が入ってくるところだった。彼は教室の異様な空気を無視して教壇にあがる。
「全員着席するように」
教官の指示で、生徒たちは椅子に座る。私もあわててヴァンたちのとなりに座った。王子とヘルムートだけが腰を浮かせたままだ。
「しかし……」
「オリヴァー、ヘルムート、着席を」
「……はい」
教官の有無を言わさない口調に圧された王子は、しぶしぶ椅子に座る。教官はそれらの行動も全部まるっと無視した。
えええええ騎士科ってこんな空気で授業してるの?
私まで巻き込まないでほしいんだけど!!
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