ケヴィンの騎士道

「久しぶりだね、これから魔法科の授業?」


 ケヴィンは左右に女の子を侍らせたまま、にこにこと私に笑いかけてきた。

 え、なんなの。

 これってどういう状況なの。

 っていうか、ケヴィンさん? 女の子と一緒にいるのに他の女の子に声かけて大丈夫?

 みんなずっとにこにこ顔のままだけどさあ!


「リリィと一緒にいる子は、初めましてだね。俺はケヴィン・モーニングスター。よろしく」

「せ、セシリア・ラインヘルトです……」

「ラインヘルト! そうか、君が噂の才女だね。かわいくて賢いってすごいな」

「ええええええ私はそんな」


 突然ストレートに誉められて、セシリアが真っ赤になる。

 その様子を見ていた女の子たちは、上品な仕草でケヴィンから離れた。


「ではケヴィン様、わたくしたちは授業に戻ります」

「うん、またね」

「ごきげんよう」


 女の子たちは丁寧にお辞儀すると、笑顔で去っていった。

 うむ、わけがわからん。


「どうして婚約者がいたときよりモテてるの?」

「う~ん、あの子たちはモテてるわけじゃないよ」


 ケヴィンは苦笑する。


「彼女たちが俺と一緒にいるのは、安全だから。俺は正式にゲイだって公表しているから、間違いが起きようがないでしょ?」

「まあ……そうよね」

「でも、周りの男からしてみれば、モーニングスター家の男がそばにいることには変わりない。彼女たちに気があったとしても、強引に手を出すことはできなくなるよね」

「つまり、さっきのアレは彼女たちを守るため?」


 ケヴィンなりの騎士道、ということらしい。


「そういうこと。ラインヘルト嬢もこっちの授業で何か困ったことがあったら、俺のところに来て。いつでもかばってあげるから」

「はい……ありがとうございます」

「私にはないの?」


 つっこんでみると、ケヴィンは笑いだす。


「君は最強の護衛を連れてるじゃない。騎士科にだって従者を入学させてるし。下手にかばったら恨まれるから、やらないよ」

「懸命なご判断と思います」

「逆に、フィーアが困っている時は俺のところに来ていいからね。友達の身内は、俺の身内でもあるから」

「お気遣い感謝いたします」


 無表情ながら、フィーアが頭をさげる。下心のないストレートな好意はうちの護衛も嬉しいみたいだ。


「ふたりは魔法科の授業を受けるんだよね? 俺も受けるから一緒に行こう」


 おっと、そういえば授業のためにこっちまで来たんだった。

 ケヴィンに連れられて、私たちも歩き始める。


「騎士科のほうはどう? ヴァンとジェイドが一緒なのよね?」

「えーと……」


 尋ねると、ケヴィンは微妙な顔になった。端正な顔を歪ませて首をひねる。


「落ち着いてるといえば落ち着いてるんだけど……いや、やっぱアレはアレだよなあ……」

「ケヴィン?」


 なんだその不穏な言い回しは。

 ケヴィンは疲れたため息をもらす。


「ん~なんというか、説明しづらいんだよね。見ればわかるよ」


 奥歯にものが挟まったような顔のまま、ケヴィンは講義室のドアをあけた。


 そこには、教室の奥の端に仏頂面で座るヴァンと、教室の前の端でヘルムートと一緒に不機嫌そうな顔で座るオリヴァー王子がいた。


 うわーこの教室、空気悪ぅ……。


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