騎士科は地雷原

「どういう状況か、説明してくれる?」


 放課後、私はヴァンとケヴィンをディッツの研究室に引っ張り込んだ。もちろん、外では言えない話をするためだ。勢いでセシリアも連れてきちゃったけど、それは置いておく。空気の悪い魔法科の授業を受けるのは彼女も一緒なわけだし。


「へー、こんなにいい部屋あったんだな」


 ヴァンは部屋を見回してのんきなことを言っている。それを聞いて家主こと、東の賢者が笑った。


「お嬢が連れてきたメンツは覚えておくから、好きな時に来ていいぞ」


 その横に控えていた黒衣の美女、ドリーがセシリアに視線を向ける。


「ここには私もいます。女子おひとりで訪れても大丈夫ですよ」

「あ、ありがとうございます……」

「みなさん、お茶が入りましたよ」


 彼らの前にジェイドがお茶を持ってきた。お茶の香りに、緊張していたセシリアの表情が和らぐ。


「あ……いい香りですね」

「ふふ、ジェイドはとってもお茶をいれるのが上手なのよ~」

「え? ジェイ……彼が……?」

「なんてったって、ハルバード侯爵家仕込みだからね……って、ちがーう!」


 私は思わず自分につっこんだ。


「お茶のためにここに来たわけじゃないの! お茶はおいしいけど!!」

「あ~教室のことか?」

「そう! なんで真っ二つになってるの」


 特別室組と王妃派で喧嘩してる女子部でも、もうちょっと穏やかだぞ!

 ヴァンは嫌そうに顔をしかめる。


「あれは王子がアホなのが悪い」

「ストレートだね?!」


 ヴァンの後ろで、ドリーがくっと口元を吊り上げる。いやいやいや笑いごとじゃないから。


「だってそうだろ。ハルバードとミセリコルデっていったら、ハーティアを支える二大名家だぜ? そいつら怒らせたうえに、クレイモアとカトラスとモーニングスターにまで反感買って、どうやってこの先国をまとめるつもりだっていうんだよ」

「勇士七家のうち、5家だもんね」

「ダガーは断絶してるし、あとはランス家ぐらいだろ。王家の肩もつっていったら」


 確かに王は国のトップだ。

 しかし、国とは王に使える家臣あってこそ成り立つものである。ハーティアで勇士七家からの支持は治世に大きく影響する。


「その状態で王子でござい、ってふんぞり返ってみろよ。アホすぎてつきあいたくなくなるだろ?」

「まあ……そうかもしれないけどさ……」


 でも、それだけじゃあの教室の空気の説明がつかない。

 だって敵意を表してるのはヴァンだけじゃなかったから。なぜか騎士科の生徒も教師も全員王子に冷たい。王子ということで一定の敬意ははらってるけど、それ以上のフォローは拒否しているように見えた。

 婚約の裏事情を知っているヴァンやケヴィンならともかく、一般生徒が王子へ敵意を向ける理由があるように思えないんだけど。


「ああ、それはハルバード……というか、アルヴィンさんとリリィが騎士科の恩人だからだね」

「へ?」


 ケヴィンの説明をきいて、私は首をかしげる。

 学園改革した兄様はともかく、私がどうして騎士科の恩人に?

 何もしてないけど?


「三年前の落第騒動の話だよ」


 それを聞いて、私はますます首をかしげた。


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