朝ごはん

 フィーアが運んできたのは、パンあり、卵あり、フルーツありの贅沢ブレックファーストだった。できたてのメニューがサロンのテーブルに広げられる。


「おいしそう~!」

「えええええ……特別室だからって、別室で朝食なんていいんですか……私なんか食堂の隅っこで十分ですよ?」


 セシリアがぷるぷると震えながら朝食を見る。


「構いません。というより、皆さん極力こちらで食べてください。大勢と一緒に食事をとられると、毒見ができませんので」

「Oh……」


 フィーア以外の全員の口から、変な声が出てしまった。

 あーそういえば私、王子の婚約者だったわ。クリスはお姫様だし。

 ふたりとも命を狙われる可能性の高い立場だったわー。


「だ、だったら、貧乏子爵家の私は下に行っても……」

「アイリスたちの悪戯の餌食になりたい?」


 彼女たちは昨日の一件で、私を敵と認定した。特別室入りして、友達になったセシリアもライラもまとめて標的になっているはずだ。私やクリスのような押さえもなしに一人歩きするなんて、襲ってくださいと言わんばかりの行動である。

 それを指摘すると、セシリアは『ひっ』と小さく悲鳴をあげたあと、ぶんぶんと全力で首を左右に振った。


「いいじゃない、とにかく食べましょ。フィーアも座って」

「いえ、私は……」

「学園で生活する以上、フィーアも表向きは学生でしょ? あまり特別扱いしないで、同じ学生としてふるまってちょうだい」

「う……」

「これは、ご主人様命令よ」


 ご主人様命令で、ご主人様扱いするな、とは我ながら矛盾も甚だしい。でも、こうでも言わないとフィーアは『メイド』の位置から動こうとしないからなー。


「……わかりました」


 フィーアはしぶしぶ私の隣に座る。


「身の回りのことも分担しないとね。特別仕様の部屋だけど、担当の使用人が入るわけじゃないし」

「いえ、家事は私が」

「だーめ、分担するの」


 また仕事をしようとするフィーアを私は止めた。


「あなたの一番の仕事は私の護衛でしょ? 勉強と家事と私の世話までやってたら、パンクしちゃうわ。まずは護衛の仕事に集中してちょうだい」


 ここは部下がたくさんいるハルバードじゃない。交代要員もない状況で、いつものように私に構ってばかりいたら、さすがのフィーアでも疲れてしまうだろう。

 そう言っていると、なぜかセシリアは私をまじまじと見つめている。


「どうかした?」

「いいいいい、いえ、なんでもありません。リリアーナ様って、面倒見が……いいなって……思って……」

「ご主人様はすばらしい指導者です。だから、生活をお支えするのは当然なのです」

「わわ、私、掃除と洗濯は得意なので……!暖炉の掃除とか、絨毯のシミヌキとかさせてください」


 こらこら、聖女がメイドと一緒になってどうする。


「同級生にそんなことまで頼めないわよ」

「気にしないでください。私は家事が好きなので……むしろ学園にも行かずに一日中家事だけやってたいとかある……もう家事代行だけで生きていたい」


 それはそれでだめだろ。


「……侯爵家の身内の子爵令嬢が家事代行はどうかしら。そもそも、ダリオからそれなりの額のお小遣いももらってるだろうから、働く必要なんかないんじゃない?」

「だだだ、ダリ兄の感覚で渡された『お小遣い』なんて、額が多すぎて手を付けられませんよっ! 小市民に金貨は多すぎます!」


 元々金満家のカトラス家だもんね。金銭感覚が庶民とズレてるのはしょうがない。

 でもそれ以上に気になる発言があったな。


「掃除の分担は追々決めるとして、ひとつ聞いていいかしら」

「な、なんでしょう?」

「どうしてダリオが『ダリ兄』なの?」


 話を聞いていたライラも不思議そうな顔になる。


「カトラス侯とは、血縁ではないのよね?」

「えええと……それは……そのぅ……」


 セシリアは、うろうろと視線を泳がせた。


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