学園生活の始まり

 翌日から、学園生活が始まった。


「あああ面倒くさい。もうはさみで切ろう」

「待って! 取返しのつかないことになるから!!!」


 朝、制服に着替えてサロンに行くと、なぜかクリスとライラが騒いでいた。私と同じように制服を着てソファに座ったクリスの頭を抱えるようにして、ライラが何かやっている。


「どうしたの?」

「あ……リリィ、ちょっとこれ見てよ!」


 ライラが手を離すと、抱えていたクリスの頭が露になる。そこには、絡まりまくった銀髪があった。


「なにこれ……」

「学園の生徒は自分の身の回りのことを自分でやるのがルール、と聞いたからな。自分で髪を結おうとしたら、こうなった」


 クリスの見事な銀髪はねじれてぐっちゃぐちゃだ。どうやら昨日のラフスタイルも、自分で髪をどうこうできなかったから、らしい。

 でも、ウチに遊びに来たときには、キレイに整えてたよね?


「普段はどうやってまとめてたの?」

「それはヴァ……んんっ! ……こほん。使用人にやってもらっていた」


 次期クレイモア伯にやってもらってたんですね!

 わかりました!!!

 つーか、毎日髪を触らせるとか、君たちマジで仲いいな! 羨ましいわ!!


「ほどいて結い直そうにも、この状態でしょ? どうにもならなくて困ってるのよ」

「うう……いっそ全部切ってしまいたい。ドレスに長髪が必要なら、その時だけカツラをかぶればいいだろう」


 君はどこのフランス貴族だ。


「私もほどくのを手伝うから、諦めないで」


 とはいえ、この髪を授業開始までになんとかできるんだろうか。私も一緒になって首をかしげていたら、サロンに新たな人物が現れた。


「お……おはよう、ございます」


 蚊の鳴くような声であいさつしてきたのは、弱気小動物令嬢のセシリアだ。騒いでいる私たちを見つけると、反射的に部屋を出ていこうとする。


「待って、逃げないで。困ってるから手伝ってちょうだい」

「え……? 困ってるって……」


 おそるおそるやってきたセシリアに事情を説明する。彼女はじっとクリスの髪を見つめたあと、そっと手を伸ばした。


「多分、ここをこうすれば……」


 彼女はしゅるしゅるしゅる、とまるで魔法のように髪を解きほぐし始めた。ものの数分で銀髪は元通りになる。それだけじゃない。彼女はついでにほどけた髪を三つ編みにまとめてくれた。しかも、サイドの髪がばらけない編み込みスタイルだ。


「これで、どうでしょうか……」

「すごーい! あっという間じゃない」


 私が手放しでほめると、セシリアは目を丸くした。そんな彼女にクリスも笑いかける。


「ありがとう、助かったよ」

「い、いえ、私は、少しお手伝いしただけですから……」

「謙遜しなくていい。君は私の髪と一限目の単位の救世主だ」


 クリスがセシリアの手をとって握手すると、彼女はますます困惑顔になる。


「く、クリス様って……女性なんですね……」

「うん、そうだが?」

「お姫様が女の子なのは当然じゃないの?」


 変な子、とライラが首をかしげる。


「あああああ、あ、あ、その。昨日はすごく、かっこいい姿、だったので。でも、髪を整えると、すごく女性らしい方だなって、思って……!」

「昨日の格好のほうが楽なんだがな」

「さすがにアレで外に出ちゃだめでしょ」


 私とクリスがくだらないことを言っているのを見て、ライラがため息をつく。


「はあ……一時はどうなる事かと思ったけど、なんとか身支度できたわね。急いで食堂に行くわよ。初日から特別室のメンバーが遅刻なんて、笑い話にもならないわ」

「移動は不要ですよ」


 フィーアの声が割って入った。

 見ると、いつの間に来たのか、彼女は巨大なフードワゴンを押しながらサロンに入ってくるところだった。


「特別室メンバーは、サロンで食事可能です」


 特別室、本当に至れり尽くせりだな?!

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