小動物令嬢と猛獣令嬢
副寮母に引っ張られて特別室にやってきたセシリアは、とにかく挙動不審だった。半分副寮母の後ろに隠れながら、辺りをきょろきょろと見回している。
小柄なこともあり、その姿はおびえる小動物のようだ。せっかくの美少女が台無しである。
そんな彼女に、ミセス・メイプルは変わらずおっとりとした笑顔を向けた。
「セシリア、ごきげんよう」
「ごご、ごきげんよう、ございます」
「今日からあなたの部屋はここよ。ルームメイトと仲良くしてちょうだいね」
「いやいやいや、それはダメですよ。私はただの貧乏田舎子爵令嬢なんですから。最上階なんて恐れ多い……三階いえ、それどころかもっと下の部屋でも贅沢なくらいです」
「何を言ってるの。あなたのことはカトラスの身内として扱ってほしい、とダリオ・カトラス様直々にお願いされてるの。侯爵家の一員ともなれば、特別室に住むのが当然でしょう?」
「それ絶対当然じゃないやつです。ダリ兄が妹扱いしても、私が子爵家の子でしかないのは変わりませんから特別扱いしちゃダメです。だから下の階の部屋を」
「却下よ」
「そこをなんとか! 皿洗いでも、部屋掃除でも、なんでもやりますから!」
「そんなこと、余計にさせられないわ」
「うううぅぅぅ、単なる平凡令嬢として世界の隅っこでおとなしく慎ましく生活したいのに、何がどうしてこうなった……」
セシリアはぶつぶつ言いながら頭を抱えている。
なんだこの状況。
世界を救うはずの聖女が、ひたすら情けないこと言ってんだけど。
ミセス・メイプルはへにょ、と眉をさげる。
「……とまあ、一事が万事この調子なの。とっても優秀な子なんだけど、あまり人付き合いが上手じゃなくてねえ」
確かに。
セシリアの言動は控え目に言って、割とヤバい。
私やライラとは別の意味で悪目立ち一直線コースだ。
「カトラス候にも特に気を付けておいてほしい、と言われてるし……できれば、あなたたちで面倒みてほしいのよ」
「まあ、放っておける感じではないですよね」
私がそう言うと、セシリアはびくっと体をふるわせた。
目があうなり、顔からすーっと血の気が引いていく。
「リリアーナ……ハルバード……? クリスティーヌも……? マジで……」
「そんなに怯えなくても、取って食べたりしないわよ」
にっこりとほほ笑みかけてみたら、セシリアはとうとう副寮母の後ろに隠れてしまった。
なんでや。
「私……そんなに怖いかしら」
「喧嘩っ早いのが見抜かれてるんじゃないの?」
クリスが冷静につっこむ。
失礼な!
ハルバード領では慈愛のお嬢様で通ってるのに!
「入寮早々喧嘩に首つっこんでおいて、温厚はないだろ」
「モーニングスター家の騒動にも首を突っ込んでたもんね」
「ちょ、待って」
もしかしてトラブルに突っ込んでく喧嘩上等お嬢様って思われてる?!
「ご主人様が騒動に関わることで、多くの者が救われています。誇ってよいことかと」
それ喧嘩云々は否定してないよね?
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