カッコカワイイお姫様

「なんだ、リリィか」


 専用サロンにやってきたのは、クリスだった。

 自室という気安さからだろう、彼女はラフな男物の部屋着でスリッパをひっかけている。髪だって纏めずそのままだ。

 しかし、その手にはなぜかシンプルなデザインの剣が握られている。一応刀身は鞘に収められたままだけど、戦う気満々の構えだ。


「下から血相変えて人がやってくるから、何事かと思ったよ」

「すばらしい警戒心だと思います」


 おい、うちのメイド。

 そこはツッこむとこだろう。


「リリィとフィーアはわかるとして……その子は誰?」


 剣を降ろして、クリスが首をかしげる。


「ライラよ。下に部屋がないっていうから、連れてきちゃった」

「そうか。それは災難だったな!」

「も、もも申し訳ありません。すぐにお暇しますから!」

「気にしないで。好きなだけいてくれて構わない」


 クリスは屈託なく笑う。


「い……いいんですか……?」

「リリィが連れてきたんだったら、いい子なんだろ?」


 クリスは笑顔のままライラに手を差し伸べた。そのまま優しく立たせてあげる。

 こういうところは、男装の麗人王子様スタイルが残ってるみたいだ。


「ありがとう、ございます……」


 立ちながら、まだライラは目をぱちぱちと瞬かせている。私が軽く肩を叩くと、やっと我にかえったらしく、あわてて背筋を伸ばした。


「ちょっと、クリスティーヌ様がこんなにフランクな方だなんて聞いてないんだけど……!」

「嫁ぎ先でイメージチェンジしたそうよ。かっこいいわよね」

「確かに……かっこいいけど……!」


 クリスはにっこり笑う。この1年で『笑ってごまかす』というテクニックを習得したらしい。多分、教えたのはヴァンあたりだろう。


「私のことは、クリスと呼んでくれ。長ったらしい呼び方は好きじゃないんだ」

「えええ……」

「敬語も使わなくていい。学年も同じなんだろ? 同世代の友人として扱ってほしいな」

「いいいいえ、それはさすがに恐れ多い……!」

「そうやって、みんなが遠巻きにすると私もクリスも友達ができないんだけど?」

「う」


 恐縮するライラにつっこむと、彼女はへの字口で言葉をつまらせた。

 そして、緊張でぷるぷるしながらゆっくりと口を開く。


「よ、よろしく、クリス」

「はは、ふたり目の女友達だ!」

「お……王族と友達……」


 ライラはまだ握手した手を見てぷるぷるしている。身分を理由にして距離をとられたら、こっちが寂しいので早々に慣れていただきたい。


「アイリスたちとやりあって疲れちゃったわ。片付けの前にお茶にでもしようかしら」

「準備を……」


 ドアの側でひっそり控えていたフィーアが歩き出そうとして、その動きを止めた。黒いネコミミをぴんと立てる。


「フィーア?」

「誰か来ます」


 私はサロンを見回した。

 私、クリス、フィーア、ライラ。

 特別室のメンバーは全員揃っている。

 ここに上がってこれる人なんて、他にいたっけ?





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