マウント勝負

「リリアーナ……ハルバード……?」


 私が前に出ると、少女たちはそれぞれの感情を返してきた。ライラは単純に驚きを。そしてアイリスとゾフィーは警戒心を示す。

 彼女たちが警戒する気持ちはわかる。


 私はお茶会でアイリスたち王妃派に喧嘩を売った令嬢であり、同時に彼女たちが熾烈な争奪戦を繰り広げていた王子様あぶらあげをかっさらっていったトンビだ。感情の話だけ言えば、八つ裂きにしたいほど憎い相手だろう。

 しかし、王妃派は身分を重んじる権威主義だ。身分を使って特別扱いを求める彼女たちは、格上の侯爵令嬢をないがしろにできない。


 仲間にすべきか、排除すべきか。

 迷った末にアイリスは猫なで声になった。


「大したことではありませんわ。貴き血に連なる者として、わきまえるべき分というものを教えていましたの」

「へー」


 わきまえるべき、ねえ。


 ゾフィーは心配そうな顔で私に近づく。


「リリアーナ様は不安じゃありませんの? このような方とひとつ屋根の下なんて。殺されそうになったのでしょう?」


 王妃という情報ソースを持つ彼女たちは、モーニングスター家の騒動の詳細を知っていたらしい。殺人未遂、という罪を聞いて見守っていた少女たちがざわついた。気丈に振舞っていたライラの顔色も青ざめる。

 私はわざとどうでもよさそうな声を出した。


「それがどうかしたの?」

「え……?」


 殺されかけた一件を持ち出せば、私もライラを糾弾する仲間に入ると思っていたのだろう。ふたりの顔がひきつる。


「あなたが命を狙われたのは、事実なんでしょ?」

「その当人が気にしてないし、どうでもいいって言ってるの。彼女は大人に脅された被害者よ。罪なんてないわ」

「しかし……」


 反論しようとするゾフィーを見据える。彼女は唇を噛んで押し黙った。


「ライラは尊重されるべき優秀な女の子よ。私とモーニングスター侯爵がそう判断したわ」

「しかし」


 さらに言い募ろうとしたアイリスを睨んで言葉を封じる。


「侯爵家の判断に、あなたごときが口をはさむの?」


 権威をかさにきていたところに、さらに上の権威を持ち出されて彼女たちは逃げ場を失う。

 私もこういう権力の使い方は好きじゃないけどね。でも貴族としての格以外の価値観がない彼女たちに言うことをきかせるには、こうする外ない。


「そういえば、元々ライラの部屋がないって話だったわよね」


 私はくるりとライラを振り返った。


「いやあの……私の部屋はあるはずで……」

「だったら、ウチのフロアに来たらいいわ!」

「え」


 その場に集まっていた少女たちが全員顔色をなくした。


「ルームメイトがクリスだけで、ちょっと寂しかったのよ。行きましょ! きっとクリスもあなたを気に入るわ」


 私は強引にライラの手を引いて階段を上がる。立ちふさがっていたアイリスとゾフィーはフィーアが上手に脇にどけてくれた。


「待ちなさいよ! あんたのフロアっていったら、最上階の……」


 もちろん、専用特別室だよ!


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