仁義なき女子バトル

 女子寮に入るなり、女の子同士の喧嘩に出くわした私は人垣の前で立ち止まった。

 この騒ぎを避けようにも、彼女たちが上のフロアに通じる階段を塞いでしまっているので、迂回できない。


 それに3人とも知らない間柄でもないので、無視できなかった。


 ひとりは、元ケヴィンの婚約者のツンデレお嬢様ライラ・リッキネン。北の食材流通を一手に引き受ける大商人、リッキネン商会の娘だ。

 そしてあとのふたりはゲーム内で悪役令嬢リリアーナの腰巾着として活躍していたアイリス・メイフィールド伯爵令嬢と、ゾフィー・オクタヴィア伯爵令嬢だ。私がゲームに反して王妃と距離をとった結果、彼女たち自身が王妃の手下に収まっていたはずだ。


 3人の様子を見て私はこっそり首をかしげる。

 私の記憶では彼女たちに接点はなかったはず。というか出会う前にライラが『血のお茶会事件』で死んでいたはずだ。

 運命を捻じ曲げ、ライラが生き残ったことで接点ができたのだろうか。


「聞こえなかったのかしら。そこをどいてくれないと、部屋に行けないんだけど」


 ライラが不機嫌そうに言う。しかし、アイリスとゾフィーはにやっと、実にいやらしい笑顔になった。


「あら、この先は貴族専用のフロアですのよ」

「あなたのような爵位もないお家の方の部屋なんて、あるのかしら」

「はぁ?!」


 なんて絵に描いたようないびり。

 王妃様のもとで、女子同士の権力闘争とは何たるかを学んだ彼女たちは、まず最初のターゲットにライラを選んだらしい。


 確かに三階は中堅から高位貴族むけのフロアだけど、女子寮の部屋割りにはもうひとつルールがある。それが寄付金の額だ。

 ライラの実家リッキネン商会は、娘を侯爵家の婚約者に推せるほどの大商会である。

 そこらの貴族より、よっぽど格式が高いし裕福だ。

 本来はそう簡単に下に見れる相手じゃない。


 でも……。


「そもそも、よく学園に入学できましたわね?」


 クスクスとアイリスが笑う。それを聞いてゾフィーも笑う。


「だって、婚約者にふられたんでしょう? しかも、恋愛対象に見れないからって……」

「ふふ、私だったら恥ずかしくて外にも出られませんわ」


 今のライラには、格好の攻撃材料がある。

 ちょうどいいカモ、というわけだ。


「そんなの、あなたたちに関係ないでしょ」

「私たちは、令嬢としてのふるまいを語っているだけですわ」


 クスクス、クスクス。

 アイリスとゾフィーが笑うたびに、少女たちの間に嫌な空気が流れる。


 私は一歩、前に踏み出した。


 ダメだ。

 これは何かダメだ。 

 そのままにしちゃいけない。

 みすごしたらダメなことだ。


「ごめんなさい、フィーア。早速だけど騒動に首を突っ込むわ」

「謝罪は不要です。周囲の警戒はおまかせを」

「助かるわ」


 私はずいっと少女たちの人垣に割り込んだ。ライラとアイリスたちの前に立つ。


「あなたたち、何を騒いでるの?」


 彼女たちの視線が、一斉に私たちに向けられた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る