知らぬは本人ばかりなり

 一年ぶりに会ったはずの友達に、いきなり恋人の名前を言い当てられて私はパニックになった。


「なんでーっ!」

「いや、見たらわかるだろ」

「見たら、って! ヴァンがフランに会ったのは1年前のカトラスじゃない!」


 しかも、あの時はヴァンとクリスの問題を解決するために、バタバタしていた。一緒に会話した時間なんて数時間がいいところだ。


「あの状況の何を見てどう判断してるの……」

「あいつが現れたとたん、顔をキラッキラさせといて何言ってんだ。その後もことあるごとに頼りまくってたし」

「え」


 ちょっと待て。

 確かにフランのことはずっと前から大好きだったけど!

 あのころは補佐官としか扱ってなかったはずだよ?!


 い、いや待て。

 これはヴァンの主観だ。

 彼は王宮育ちなせいで、人の思惑の裏の裏を読むクセがついている。深読みしすぎて正解に行きついただけかもしれない。

 あの場にはクリスもいたはずだ。彼女の印象は違うという可能性もある。

 助けを求めるように視線を向けたけど、クリスは苦笑いになる。


「ずいぶん仲がいいようだから、私もてっきり、ふたりは恋人なのかなー……と」


 脳筋クリスにまでそう思われてた?!


「嘘でしょおおおおお……」


 恋愛感情を自覚したの、つい数か月前なんですけど?

 なんで周りばっかり、私がフランを好きだって思ってるわけ?


「お前気づいてなかったの? マジで?」

「わかるわけないでしょ!!」


 むしろわかってたら、一緒にいなかったよ!

 ええええ……なんなのそれ。


 私がフランと一緒に過ごすようになったのは3年以上も前だ。

 それから今まで、ずーっと周りに恋心を見守られてたってこと?

 そういえば、当のフランにだって、告白前から気持ちを気づかれてたな……。

 え? 知らなかったの自分だけ?


 これはひどい。

 恥ずかしすぎて死ねる。


「このまま消えたい……」

「ま、まあそんなに落ち込まないで。これからは恋人としてふるまえるわけだし」


 ありがとうケヴィン。

 君の優しいフォローだけが心の支えだ。


「いいもん、婚約発表で見せつけてやるもん……」


 今更くよくよしていてもしょうがない。

 起きたことは起きたことだ。

 結局フランは私の気持ちを受け入れてくれたわけだし。

 小夜子の時には体験できなかった、友達と一緒の学校生活(恋人つき)を、思う存分楽しんでやるもん。




 でも、私はこの時もう少し深く考えるべきだった。

 私の恋心なんて、誰が見てもわかるんだってことを。


 一目見れば、一番大事な人が誰なのか、簡単にわかってしまうってことを。



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