クレイモア夫婦事情

 クレイモア騎士団に男夫婦が多い?

 なんだその話。


 ヴァンの爆弾発言の真偽を問いただすように、私が目を向けると、クリスは苦笑しながらうなずいた。


「うちのおじい様は『戦場で働いてくれるなら、他は気にしない』、というおおらかな方だからな。家督を親戚に譲って気楽な田舎騎士生活をしている男夫婦が多いんだ」


 聞いてないぞ、そんな裏設定。

 わざわざヒロインに聞かせるような話じゃないけどさ。


「ってわけで、お前の個性は割とどうでもいい。ただし恋愛の話はナシな。俺の嫁はクリスって決まってるから」

「そうなんだ。じゃあ、よろしくね……えっと、友達として」


 少年ふたりは握手し合う。


「クリス……ヴァンが成長しすぎじゃない?」


 なんだあのかっこいい生き物。そう囁くと、クリスは神妙な顔で頷く。


「ああ、正直手に負えない。私は相変わらず女らしいことは何ひとつうまくできないというのに……このままじゃ置いていかれそうだ」

「そんなことはないんじゃないの。そのドレスとかすごくセンスがよくて素敵よ」


 現在の貴族社会の流行は、レースを贅沢に使ったフリルたっぷりのふわふわドレスだ。その流れを完全無視したあげくに、凛とした美しさを演出するこのドレス選びは、なかなかできない。


「ああ、そのドレス選んだの俺」


 ヴァンはこっちの会話にまで爆弾を投入してくる。

 さすが元お姫様、ファッションセンスの格が違う。ではなくて!


「自分の衣装は面倒くせえけど、嫁を飾るのって結構楽しいのな」

「俺もその気持ちはわかる。女の子が着飾ってるのって、見てて幸せになるよね」


 ケヴィン、ボケにボケを重ねないで。

 これはこれでダメなんじゃないの。


「今はいいかもしれないけど、社交界に出てファッションの話になったらどうするの。自分で受け答えできないと困るわよ」

「そこはぬかりない。クリスには魔法の言葉を教えてあるからな」

「何それ?」


 ヴァンはにやにやと楽しそうに笑っている。


「クリス、言ってみろよ」

「い、今言うのか? ここで?」

「ここは身内しかいねえし、練習だと思ってやってみろって」

「う、うう……」


 クリスはため息をつくと、『魔法の言葉』を唱え始めた。


「この……ドレスを選んだ、のは……ヴァンが……このドレスを着ている私が……綺麗だと言ったからで……流行りとかそういうのは……」


 耳まで真っ赤な照れ顔つきで、この台詞である。

 なんだこのかわいい生き物。

 この照れ照れ美少女に、それ以上つっこめる人間など、この世界にいるだろうか。

 いや、いない。


「ヴァン、あなたいい趣味してるわねー……」

「どうとでも」


 ヴァンはテレ顔の嫁を見て楽しそうに笑っている。君たち、1年でラブラブになりすぎじゃないの?


「まあ、ファッションはこれで乗り切れたとしても、細かい女子トークに合わせるのは無理だから、王立学園ではフォロー頼むな」

「元々、そのつもりよ。逆に私が女子部外の授業に参加するときは助けてよね」


 私が女侯爵となるためには、実技をのぞくほとんどの騎士科単位をとらなくちゃいけない。周りのフォローは絶対必要だ。


「あれだけ派手な噂を流してたお前が、外部科目受けられんの?」


 元お姫様として、ヴァンも男女の教育格差問題は知っていたらしい。不思議そうな彼に向かって、私はふふんと胸をそらす。


「そこは大丈夫、ちゃんと婚約者はいるから」

「また何かの計画か」

「違うわよ! 今回のはちゃんとした、本物の婚約者! まあ……色々あって、公式発表はまだだけどさ……」


 今まで派手に動き回ってたせいで、私の評判はめちゃくちゃだ。

 そんな中でミセリコルデ家との縁談を公表しても混乱するだけ、ということでまだフランとの関係は伏せられている。王立学園入学までには発表する予定だけど、今はまだ噂が沈静化するのを待ってる状態だ。

 自業自得とはいえ、面倒くさい。


 それを聞いて、ケヴィンがほっと息を吐いた。


「よかった……! 俺の家のことで、リリィにも迷惑をかけたから心配してたんだ。お相手は、俺も知ってる方?」

「えへへ……実はね……」

「フランドール・ミセリコルデだろ?」


 私の秘密を、ヴァンがあっさり言い当てた。


「なんでわかるの?!」


 お前本当に爆弾発言多いな?!


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