銀髪パラダイスふたたび
「いらっしゃい、ふたりとも!」
メイドたちに案内されて、お茶会の席にやってきたふたりを私は出迎えた。
一年前カトラスで知り合った元女装男子ヴァンと、元男装女子クリスだ。
久しぶりに彼らと対面した私は、その姿を見て思わず驚きの声をあげてしまう。
「ヴァン……? めちゃくちゃ背が伸びてない……」
「厚みもだいぶ増えたぜ。騎士訓練のおかげだな」
たった一年で、ヴァンは様変わりしていた。
伸びたのは背丈だけの話じゃない。剣を握る手は無骨に大きくなった。その上体はどこもかしこもがっしりしていて、騎士服ごしでも、筋肉がついていることがよくわかる。長かった髪を短く刈り込んだその姿は、どこからどう見ても男の人だ。
あれー? ゲームだと女の子として王立学園に通ってたよね?
今のヴァンにドレスを着せても女の子に見える気がしないんだけど?
そういえば、金貨の魔女から変身薬だけじゃなく、男としての成長を止める薬も買うって言ってたっけ……そんな未来は捻じ曲げたからいいんだけど、ディッツの奴どんだけ強力な薬を作ってたの。
「少し筋トレしただけで、あっという間に筋肉がつくんだからな。うらやましい体質だよ」
「いやいや、ヴァンをうらやましがってる場合じゃないでしょ。クリスだってめちゃくちゃ美人になってるじゃない」
変わったのはクリスもだ。
胸を押さえ込む下着を脱ぎ捨てた彼女は、すっかり女性らしくなった。といっても、かわいいという印象は受けない。しなやかなボディラインに一切の無駄がないからだ。顔をあげ、ぴんと背筋を伸ばして立つ姿は凛として美しい。
しかもドレスのデザインが最高だった。フリルやレースの少ないシャープなデザインのドレスが、彼女のきりりとした美しさをより一層ひきたてている。
かっこいいアスリート系美少女最高!
「き、きれい……? そうか?」
本人には美少女の自覚はないらしい。クリスは困ったように顔を赤らめる。
照れ顔まで最高か。
「うん、すごくキレイ! ヴァンの婚約者じゃなかったら、私がお嫁にほしいくらい!」
「人の婚約者にばっかり手を出してんじゃねえよ」
ヴァンがあきれ顔でつっこみをいれてきた。
「あれ? ケヴィンの婚約者話って、そっちの耳にも入ってるの?」
「あれだけデカいゴシップ流しておいて、耳に入るも入らないもねえだろうが」
そう言ってから、同席しているケヴィンに目を向ける。
「で、そのケヴィンがここにいるってことは、なんかうまくいったのか?」
「そういうこと! さっき新しい仲間としてゲットしたところよ。ヴァンたちとも仲良くしてもらいたくて、同席させちゃった」
いきなり話の矛先を向けられて、ケヴィンがびくっと体をこわばらせる。
「え……えっと……?」
ケヴィンはうろうろと視線をさまよわせる。そういえば女所帯で育ったから、女慣れはしてても、男の子と話すのは苦手だったっけ。
「それもあるけど……あんまり印象が変わってたから」
「王宮で何度か会ったことがあったか?」
ヴァンはちらりとクリスに目くばせする。クリスもこっそり頷いた。
そういえば、離宮にこもっていたクリスティーヌはともかく、シルヴァンはクレイモア伯に連れられて、何度か王宮に上がってたはずだ。ケヴィンと会っていてもおかしくない。
しかし、ヴァンは笑顔でしらばっくれた。
「まあ、会ったっていってもガキのころだからなー。ほぼ初めましてみてぇなもんだろ。どうせ秋からは王立学園で一緒になるんだし、仲良くしようぜ」
「い……いいの? リリィの噂を知ってるってことは、その後の俺の噂も……」
さらに、ケヴィンのコンプレックスもあっさり流す。
「別に気にしねえよ、その程度」
そして爆弾を投下してきた。
「クレイモア騎士団にも男夫婦は多いしな」
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