言葉にならない

 私を腕に抱いたまま、フランが息をついた。眉間にはまた皺が寄っている。


「……正直なところ、お前に抱いている感情を言語化するのは難しい」

「そう?」


 単純な好き、って気持ちじゃないのか。


「最初は純粋な保護欲だったんだ。お前は俺の命を救った恩人で、子供だった。アルヴィンと同じように、妹として可愛がっていればそれでよかった」

「まあ……そうなるよね」


 私もそれが当然だと思ってた。

 だから、フランが私に恋してくれるなんて、全然思いもよらなかった。

 フランと一緒にいるって決めても、その気持ちが恋だって思わなかったのだって、想いが絶対叶わないと思ってたからだ。


「それなのにお前ときたら、大人よりずっと鋭いことを言うかと思えば、幼児のように駄々をこねるし、達観していると思えば、諦めが悪いし。どうにも扱い方を測りかねていたら、大人の姿で突撃してきて……お前に胸を押しつけられて、俺がどれだけ混乱したか、わかってないだろう」


 いやそんなに睨まれても。

 あの時は私だって必死だったんだもん。


「俺は多分、一生お前のことを見捨てられない。どこにいても思い出すし、何をされても無関心ではいられない。だったら……側にいるしかないじゃないか」


 愚痴のような、文句のような言葉。

 それでもなぜか嬉しいのは、この人の大事な部分にいるのが私だって、わかるせいだろうか。


「リリアーナ」


 フランの手がもう一度私の頬に触れる。


「一緒にハルバードで暮らそう」

「うんっ!」


 私が頷くと、唇が重なった。

 ちゅ、と軽く触れてフランの顔が離れる。


「本当にキス、しちゃった……」


 ふたつの人生合わせて初のキスだ。


「お前、あっちで18まで生きてたんじゃなかったのか」

「あっちの私は入退院を繰り返す病弱少女だもん。まともに恋愛する余裕も体力もなかったわよ。だ……だから……その……恋人とかそーいうのは……全部フランが初めてというか……」

「ふうん」


 にい、とフランの唇が吊り上がる。

 なんでお前今日イチいい笑顔になってんだ。

 思考が理解不能なのは、お互い様だと思うぞ。


「あのさ、フラン……私がんばるから」

「何を?」

「私が子供だから、待たせちゃうことが、いっぱいあるよね。がんばって、早く大人になるから……」


 ぷに、と私の唇をフランの指先が押さえた。

 突然の接触に、どくんと心臓が跳ねる。

 お前乙女に何をする。


「焦らなくていい。どうせあと数年の話だ。その後50年一緒にいられるなら、どうということもない」


 結婚やばい。

 一緒にいる、のスケールがデカい。

 10年先のビジョンが見えてなかったのに、いきなり50年の話とかどうしろと。


 混乱している私の頭をフランの手がゆっくりとなでる。


「今は子供扱いだが、成人したら覚悟しろ。……めちゃくちゃにしてやる」


 お前乙女に何する気だよっ!!!!!





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