ショータイム

 従者とメイドを従えて、私はパーティー会場に登場した。

 美しく飾られたホールには、役者が全員そろっている。


 シナリオはフラン、主演は私。

 モーニングスター侯爵家大掃除ショーの始まりだ。


「ご招待いただいたのに、遅れて申し訳ありません。侯爵様」


 私はにっこりと笑うと淑女の礼をした。


「いらっしゃい、リリアーナ。この程度気にしないわ」


 侯爵様は驚きもせずに笑う。

 当然だ。彼女も共犯者なのだから。


「あ……あああっ」


 エヴァが真っ青な顔であとずさる。

 私はフィーアに持たせていた小瓶を受け取ると、エヴァの前に置いた。


「ごきげんよう、エヴァ。先日はとってもおいしいお茶をありがとう」

「……っ」

「あの素敵な苦みは、隠し味のおかげね。あんまりおいしかったから、そっくり同じ成分の薬を作ってみたの。あなたも飲んでみない?」

「い、いやああああああっ! ごめんなさいっ!」


 私から逃げようとして、エヴァは椅子から落ちてしまった。そのまま頭を抱えて蹲ってしまう。


「そうそう、ライラにもお礼をしないとね」


 くるり、とライラに顔を向けると彼女もまた真っ青な顔で顔をこわばらせた。

 その前に、ビーズのピンブローチを置く。


「かわいいブローチをありがとう。お礼に、たっくさん祈りを込めたブローチをプレゼントしたいんだけど、いいかしら?」

「ややややっ、やめてっ! 謝る! 謝るからぁっ!!!」

「素直でよろしい」


 人間、素直で誠実が一番よねー。


「リリィ……? これって一体どういうこと?」


 ケヴィンが茫然と私を見上げていた。フローラもきょとんとした顔でこっちを見ている。


「大したことじゃないわ。エヴァに毒いり紅茶をもらって、ライラに呪いのブローチをもらっただけだから」

「ちょ……それって、君が死ぬんじゃ……!」

「私はそう簡単に死なないわよ。優秀な護衛がいるもの」


 私は後ろに控えているフィーアとジェイドを紹介する。このふたりの目を盗んで、私に危害を加えられるような人間は、ほとんどいない。


「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


 エヴァはまだ頭を抱えて蹲っている。

 うーん、ちょっと脅し過ぎたかもしれない。


「そんなに怯えなくてもいいわよ。ふたりにはそんなに怒ってないから。私を殺せって、無理やり命令されたんでしょ?」

「あら、そんな不届き者がいるの? どなたか知りたいわね」


 モーニングスター侯爵が、わざとらしく首をかしげる。

 私は茶番劇のシナリオ通りに犯人の名前をあげた。


「エヴァの叔父のブルーノ・オルソン氏と、ライラの遠縁のテレサ女史ですわ」

「まあ、大変。そんな卑怯な方はつかまえないと!」


 侯爵様がそう言った瞬間、会場に詰めていた警備兵がふたりにとびかかった。

 いきなり捕り物が始まるとは思っていなかったのだろう、彼らは抵抗する間もなく拘束される。モーニングスター家の親戚一同が見守る中、侯爵様の前へと引き出される。


 必殺!

 関係者一同の前で犯人暴露ショー!!!

 情報伝達の発達してないこの世界で、下手に内輪で犯人を指摘したら、後々変な噂になるからね! 大事な話は全員の前でやりましょう、ってことらしいよ!

 フランの意図はわかるけど!!!


 侯爵様も巻き込んで関係者全員集めて犯人指摘とか、どこの推理小説の探偵だよ!!!


 しかも計画を立てた本人は当日になってドタキャンするし!

 侯爵様の力を利用した以上スケジュール変更なんてできないんだからね?!

 証拠や関係者をツヴァイが全部用意してくれたから、フラン自身は必ずしも必要ないけどさ! 責任者として同席するのがスジってもんじゃないの?


「私がライラを脅した? 何を根拠にそんなことを!」


 警備兵に拘束された女が叫ぶ。私はにっこり微笑み返した。


「もちろん、ぜーんぶ証拠はそろってますわよ」


 やらなきゃ解決しないから、全部やるけどね?!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る