奇妙なお茶会(ケヴィン視点)

 久しぶりに行われたお茶会は奇妙なものだった。


 昼食会もかねたパーティーに呼ばれたのは、主にモーニングスター家の親戚ばかり。

 加えて、エヴァ、ライラ、フローラの3人もそれぞれ後見人や家族ごと招待されていた。今の関係通り3人全員と結婚したら、彼らも含めて親戚づきあいをすることになるだろう。

 その光景はモーニングスター一族の未来予想図を見ているようだった。


 ホールに入ると、さらに奇妙なテーブルに案内された。


 テーブルの中心に座るのは、祖母であるモーニングスター侯爵。その両脇に2つずつと、正面にひとつ、席が用意されている。


「ケヴィン、そこに座りなさい」


 祖母の指示通り、俺は正面に座る。しばらくすると、婚約者たちがやってきてそれぞれ両脇に座らされていく。

 いつも上品なエヴァ、ドレスが素敵なライラ、小さなフローラ。


 そして、最後に席がひとつ残った。


「あれ? リリィは来てないの?」


 祖母に婚約者候補として認められて以来、俺が出席するパーティーには必ず顔を出していた、黒髪の女の子がいない。モーニングスター家のパーティーともなれば、絶対に来ると思ったのに。


「あの子は欠席よ」


 祖母がそう言うと、エヴァとフローラの顔がさっと青ざめた。


「先日行われたフランネル伯爵のパーティーに出席したあと、体調を崩して伏せっているそうなの」

「フランネル伯爵の? そういえば、ライラもそのパーティーに出席するって言ってなかったっけ」


 話を振ろうとそちらを向くと、ライラはさっと視線をそらした。それだけじゃない、なぜか彼女はカタカタと小刻みに震えていた。


 体調の悪い素振りはなかったか、と聞こうとしただけなのに。


「ライラ?」

「わっ、わたしは……何も知らないわっ! そ、それに、パーティーにはエヴァだって来てたはずだしっ!」

「そうなの?」


 エヴァのほうを見ると、彼女はぶんぶんと首を振った。


「確かに、私もパーティーには行きましたけどっ……すぐに帰りましたわ!」


 涙目で主張する彼女の顔色は、ますます悪くなっていく。

 その様子はただごとじゃない。


 パーティーで何かが起きたんだ。

 それも、取り返しのつかないほどマズいことが。


 どくどくと急に鼓動が速くなり始めた。

 彼女たちは婚約者で友人だ。ややこしい関係だけど、一番近くで見てきた女の子たち。

 不幸になんか、なってほしくない。

 それなのに、守れなかった?


「エヴァ……?」

「私は……何も……ひぃっ!!」


 ガタン、と大きな音をたててエヴァが体をこわばらせた。

 俺のほうを見て、目を大きく見開いている。


「エヴァ? どうしたの」

「あ……ああっ……!」

「ちょっと、変な顔してないで……ひゃぁっ……!」


 エヴァの視線の先を追ったライラも悲鳴をあげた。

 俺に驚いたわけじゃない。俺の後ろに何かを見つけて驚いたのだ。


「何が……!」


 振り向くと、そこには赤いドレスの女の子がいた。

 艶のある長い黒髪に、きらきらと輝くルビーアイ。


 リリアーナ・ハルバードがいつものように美しく笑っていた。




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