幕間:それぞれの思惑(視点多数)

「よう、エヴァ。この間のお茶会ではうまくやったみたいじゃねえか」

「……」


 叔父の言葉にどう答えていいかわからず、私は俯いた。

 三日前のお茶会で、私は叔父の言う通りある人物に毒を盛った。すぐにバレると思ったその毒は、すんなりと少女の口に入り、咎められることなく帰宅することができた。

 ……帰宅できてしまった。

 私は今や毒殺犯だ。

 その命令を下した叔父は、ニヤニヤと笑いながら毒々しいデザインの小瓶を私の手に乗せる。


「もう一度だ、エヴァ」

「そ……そんな……! あれっきりだって……!」

「あれで終わるわけないだろ。邪魔者はまだふたり残ってるんだぞ」

「でも……っ」

「ひとり殺したら、ふたりも三人も変わらないだろ。お前がケヴィンのただひとりの妻になるまで繰り返せ」

「で……できませんっ……!」

「アレがどうなっても、いいのか?」

「……」


 叔父は毒の小瓶を私に押し付けた。小さな瓶のはずなのに、ずしりと重い。


「俺もお前には幸せになってほしいと思ってるんだ。みんなで仲良く暮らそうぜ」

「うう……っ」







「ちょっと、なんで呪物が増えてるのよ!」

「殺したい相手がまだいるからに決まってるでしょ、おばかさん」


 真っ赤な唇をゆがめて、女は笑った。


「ライラちゃん、最初に言ったでしょ? あなたにはケヴィンの妻になって、モーニングスターの財産を握ってもらうって。それなのに、あなたときたら……他の婚約者の面倒をみたりして……やる気あるの?」

「だ……だから……侯爵令嬢に呪いのピンをつけたでしょ! もうこれ以上は嫌よ!」


 叫んでも女には響かない。

 彼女はニヤニヤと笑うばかりだ。


「あなたの意志なんて関係ないわ」


 女は強引に私に呪物を持たせた。一見綺麗なアクセサリーだけど、これを着けられたら最後、人は呪われて病気になる。私の家族のように。


「敵はまだ残ってるの。全部終わるまで、がんばってね」

「く……」


 私はただ、唇を噛むことしかできなかった。





「小娘たちが動き出したようだ、フローラ」


 男の言葉に、私は顔をあげた。


「では……そろそろ?」

「お前のその姿を見て、疑いを持つ者はいない。隙を見て行動に移せ」

「わかったわ」


 私はドレスのチェックに取り掛かった。

 少女たちが本気で動くつもりなら、容赦などいらない。ただ闇に葬ればいい。


「ケヴィンの妻の座は……私のもの」


 思わず口から笑みがこぼれた。






「どうしたらいい……」


 俺は部屋でひとり頭を抱えた。


 ある日家族から、女の子を次々に紹介された。

 このうちのひとりを、妻として選ばなくちゃいけないらしい。


 自分にとっては結婚も恋愛も遠い話で、とてもじゃないけど誰かを選ぶことはできない。

 本当は彼女たちに会った時に、全部断るつもりだった。

 でも、彼女たちには事情があった。自分が断ってしまったら、その時点で彼女たちの命運は尽きてしまうだろう。

 彼女たちの悲壮な顔を見て、選ぶことも、突き放すこともできなかった。

 どうすればいい?

 どうすれば彼女たちを救える?


 なんとかしたいと思っても、自分はただの子供だ。

 ただ全員を受け入れるふりをして、時間をかせぐことしかできない。


 そうこうしているうちに、ハルバード侯爵家からとんでもない女の子が現れた。

 彼女が独り勝ちしてしまったら、もう3人を守れない。


 俺はどうしたらいい?

 どうしたらよかったの?


 誰か、彼女たちを助けて。



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