無茶ぶり

 バルコニーに現れた人物を確認した私は、すぐにジェイドに窓を開けさせた。ネコミミ兄妹は音もなく部屋に滑り込んでくる。


「あなたがフィーアと一緒に来るなんて、珍しいわね」

「主の命で手紙を運んできたら、妹に外の『掃除』を手伝わされてな」

「そうじ」


 私専属の侍女兼メイドのフィーアが、外回りの掃除をすることはまずない。

 彼女がお片付けしたのは、屋敷の周りを徘徊していた生きたゴミではないだろうか。

 目を向けると、フィーアはにっこりと天使の笑顔になった。


「ご安心ください、ご主人様。全員生きたまま捕縛しております。恐らく3人の婚約者のうちのどなたかの手の者と思いますので、後で詳しくご報告いたしますね」

「あ、ありがと……」


 その詳しい報告のために何をするつもりか。とてもバイオレンスなにおいがしたけど、黙っておいた。

 つっこんだら、負けな気がする。


「これを受け取ってくれ」


 ツヴァイが封筒を差し出した。そこには宛名も差出人の名前もない。


「フランからよね? ここで開けても大丈夫?」


 うちにもミセリコルデ家にも手紙の配達を請け負うメッセンジャーボーイはいる。わざわざツヴァイにこっそり運ばせたということは、それだけ人に見せられない内容、ということだ。


「妹と、そこの従者には見せていいと言っていた。内容を読んで、不明点があれば俺に聞いてくれ。補足説明するよう指示されている」

「わかったわ」


 私は封筒を開けると、中の手紙を引っ張り出した。

 報告書らしいその紙束には、見覚えのあるきっちりとした筆跡が整然と並んでいる。


「ふむふむ……3人の婚約者たちを脅してる人たちの証拠が集まったのね。なるほど、こんな風に脅されたら、従うしかないわ……」


 少女たちの置かれた状況は厳しい。追い詰められて、侯爵令嬢に毒や呪いを仕掛けるほどに。


「黒幕の確保のめどがついたのなら、あとは全員捕まえるだけだけど……ん、んんん?」


 報告書の後半は、今後の捕縛計画だった。そこにはとんでもない指示が書いてある。


「ちょ……マジでこんなことやれって言ってる……? そりゃ、できなくはないけどさ……」


 思わず、手紙を運んできたツヴァイを見てしまう。彼は金の瞳を伏せると首を振った。


「お前がそう言い出したら、『やれ』と伝えろと……」

「あーいーつーはーっ!!」


 悪代官検挙時の水戸のご老公ムーブといい、今回といい、何故こうも計画が派手なのか。私が派手だからといって、計画まで派手にする必要がどこにあるのか。

 私に変な噂が多いのって、半分くらいはフランの責任な気がするよ?!

 また噂が増えたらどうしてくれるわけ?


「でも、全員捕まえた上で、モーニングスター内の誤解をとくには、こうするしかない……かなあ……」

「お膳立てはこちらでやる。お前はシナリオ通りに動けばいい、と」

「やればいいんでしょ、やれば!」


 3人もの前途ある少女を死なせるわけにはいかないし、モーニングスター家を没落させるわけにもいかない。

 私は、腹をくくることにした。



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