ざまぁ
「エヴァが侯爵令嬢に毒を盛っただと? 俺は関係ない!」
侯爵夫人の前に跪かされた男が叫んだ。姉系令嬢エヴァ・オルソンの叔父だ。
「そいつが勝手にやったことだ! なあ、そうだろ……! そうだと言えっ!」
叔父はエヴァを怒鳴りつける。彼女はびくっと身をすくませた。
こんな命令してる時点で、関係あるって白状しているようなものだけどね。
「あ……ああ……わ、私は……」
「答えなくてもいいわよ、エヴァ。身内を人質に取られてるんじゃ、本当のことなんて言えないもの」
「何を言い出す、小娘!」
「ツヴァイ、連れてきて」
私が命令すると、会場の奥から黒装束の男が現れた。マントのフードでネコミミを隠しているけど、金の瞳は見間違えようがない。彼はその腕の中に小さな男の子を抱えていた。
男の子を見たとたん、エヴァが立ち上がる。
「マーティン!」
「姉さま……!」
エヴァは男の子に駆け寄ると、ぎゅうっと力いっぱい抱きしめた。
「マーティン……マーティン……!」
「弟を人質に取るとか、ひどいことするわよね」
「何故ここにあのガキが……! 地下牢にいたはず……」
もちろん、助けたのはツヴァイだ。獣人の身体能力と鋭い感覚を使えば、そんなに難しいことでもなかったらしい。
「モーニングスター侯爵、告白します!!」
弟を腕に抱きながらエヴァが叫んだ。
「私、エヴァ・オルソンは叔父に脅迫され、リリアーナ様を殺そうとしました! どうぞ相応の罰をお与えください!」
姪に罪を告発され、叔父は言葉をなくす。
「お、オルソン家の騒動に私を巻き込まないで! 私は何もしてないわよ」
ライラの遠縁らしい女が言う。
「家族を人質にとっているのはあなたも同じでしょ?」
「同じ? どこが? ライラの両親は屋敷で普通に生活しているわ。地下牢に押し込められたりしてないわよ」
「でも、病気でずっと伏せってるわよね?」
私が指摘すると、女の顔がひきつった。
「ちょっと無作法かと思ったけど、ライラのご両親の部屋を調べさせてもらったわ。そうしたら、部屋の隅から呪いのアクセサリーが見つかったの」
私はフィーアから小箱を受け取ると、蓋をあけた。そこには地味なデザインのビーズアクセサリーがふたつ並んでいる。もちろん、入手してきたのはツヴァイだ。
アクセサリーを見せると、女の顔から血の気が引いていった。見覚えのあるデザインだったのだろう。
しかし彼女は顔をこわばらせたまま首を振る。
「それを私が仕掛けたと? どこにそんな証拠があるの」
「証拠はこれから出てくるわ」
私は女の目の前でビーズアクセサリーを手に握りこんだ。
「あなた、呪いの不思議な性質を知ってる? 壊すと呪いの力がかけた本人にかえっていくの」
私はアクセサリーを握り締める。
ぎりぎりと力を入れると同時に、手の中から黒い煙が立ち上り始めた。
「や、やめてっ!」
「あら、どうして? あなたは無関係なんでしょ?」
「やめて! お願いだから!! まだ死にたくないっ!!!!」
「人の命を脅かしておいて、死にたくないとか……自分にはずいぶん甘いのね」
私はビーズアクセサリーをぽいっと投げ捨てた。
「安心して。それはすでに無害化してるから、ただのアクセサリーよ。あなたじゃないんだし、本当に人が死ぬようなマネはしないわよ」
手から立ち上った黒い煙は、ただの演出だ。
私が種明かしすると、女はへなへなとその場に崩れおちた。
「モーニングスター侯爵、告白いたします」
ライラは椅子から立つと、侯爵様の前に跪いた。
「私はテレサに脅されてリリアーナ様を殺そうとしました。私にも罰をお与えください」
ふたりの少女の告白を聞いたモーニングスター侯爵は立ち上がった。
「エヴァ、ライラ、あなたたちに罪を問うことはいたしません」
その言葉に、会場の空気がざわつく。脅されたとはいえ、ふたりがやったのは殺人未遂だもんね。
「リリアーナも言ったでしょう? あなたたちふたりには、怒っていないと。あなたたちは大人に脅された被害者だわ。害されようとした本人が無傷で許すと言ってるんだもの、それ以上責める必要はない」
そして、会場に集められたモーニングスター家の親戚一同を見渡す。
「これはモーニングスター侯爵としての裁定よ。彼女たちにはケヴィンの婚約者を降りてもらうけど、モーニングスターの家族であることに変わりないわ。彼女たちを責めるのは、私の決定に逆らうということ。皆、わかったわね?」
「はいっ!」
罪人を除いた全員が侯爵の言葉に同意した。
ゲームではばらばらになってたけど、この結束の強さが本来の姿だったのだろう。
「……では、ケヴィン様の婚約者は私とリリアーナ様だけになりますわね」
ぽつんとフローラがつぶやいた。
私は彼女を振り返る。
「あなたが、本物のフローラ・ベイルマンだったらね」
少女から天使の微笑みが消えた。
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