悪役令嬢の欠点

「……というわけで、いろんな方向から変な縁談が来てるんですよ」


 ダリオがうちにやってきてから数日後、私はミセリコルデ家を訪れていた。

 といっても、遊びに来たわけではない。多忙なマリィお姉さまから淑女教育を受けるのが主な目的だ。その後、フランの学科指導まで予定されている。

 今日は丸一日お勉強デーだ。


「あなたの欠点は、その自己評価の低さねえ」


 一通りのマナー講習を終え、私の話を聞いていたマリィお姉さまは、苦笑した。


「フランやアルに囲まれて、うぬぼれる暇すらなかったんでしょうけど……リリィちゃん、あなた自分が優秀だと思ってないでしょう。まして、誰かに恋されるなんて、これっぽっちも考えてないんじゃないの」

「えっ」


 恋するはともかく。

 私が恋、される?


「ケヴィンのこともそう。モーニングスター家にとっての有益性をアピールしたり、婚約者たちを挑発したりしてるけど、肝心のケヴィンには何もしてないわよね」

「う」

「ケヴィンのことは全然オトす気がないし、ケヴィンに好かれるとも思ってないんじゃないの?」

「……う」

「お姉さん、リリィちゃんの真意が知りたいわぁ」

「……も、黙秘で」


 さすがフランの姉、鋭い。

 でも、真実をそのまま話すわけにはいかない。


 実は、今のケヴィンが誰にも恋する気がないことも、だからこそ誰かひとりを選ぶことができないことも知っている。

 でもそれはゲームをさんざんプレイして、ケヴィンにひたすらよりそって交流したからだ。

 そんな怪しい情報をフラン以外の人間に語ったところで、頭の状態を心配されてしまうのがオチだ。


「確かにリリィちゃんは噂の的よ。正直、これだけ極端な評価が飛び交ってるのは不自然だと思う。でも、噂が広まるには、その話を信じさせる根拠が必要なの」


 マリィお姉さまは、その白い手で私の頭をよしよしとなでた。

 フランの大きな手とはまた違う、くすぐったい感覚だ。


「あなたはすごい女の子だってことを、忘れないで」

「そうでしょうか……?」


 家柄、財産、容姿は生まれによるものだ。勉強や仕事は頑張ってるけど、フランや兄様には遠く及ばない。目の前に出されたものを、ただひたすらこなしてただけだ。

 そう言うと、マリィお姉さまは困ったように微笑む。


「それから、もうひとつ。あなたには将来があることを忘れちゃダメよ」

「しょうらい……まあ、この先学園にも通いますしね」

「そういう2年3年の話じゃないわ、10年先の話よ。リリィちゃん、あなた大人になった先のことを考えてる? 自分がこの先、どう歳を重ねていくのか、想像もしてないんじゃないの」

「……っ」


 マリィお姉さまの指摘に、私は何も答えることができなかった。



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