モーニングスター侯爵

「おばあ様、ご機嫌うるわしゅう」


 ケヴィンが祖母に向かってお辞儀した。同時に3人の婚約者たちも頭をさげる。私も一緒になって、頭を下げた。


「みんな元気そうで何より。ケヴィンも……それからあなたたちも」


 モーニングスター侯爵は、私たちに笑いかける。


「あら、あなたは初めて見る顔ね」

「リリアーナ・ハルバードと申します。本日はお招きありがとうございます、お目にかかれて光栄です」

「ハルバード……あなたが侯爵家の……」


 侯爵様は目を見開いた。

 貴族特有の、探ったり値踏みしたりする見詰め方じゃない。

 何かとんでもないものを見つけた時のような、驚き混じりの視線だった。


 はて。

 何かそんなに驚くようなことやったっけ?

 ……色々心当たりはあるけど、多すぎてわからない。。


「おばあ様?」


 ケヴィンも祖母の態度を不審に思ったみたいで、不思議そうに声をかけた。

 それを聞いて侯爵様は、はっと我に返る。


「ねえ……ケヴィン、楽しくおしゃべりしていた所に申し訳ないんだけど、リリアーナ嬢をお借りしていいかしら?」

「え」

「少しだけ、ふたりでお話したいの」


 何故に。

 ケヴィンはともかく、モーニングスター侯爵と私に接点はない。

 私にも、侯爵にも、特別話す用事なんてなかったはずだけど。


 まさか、ケヴィンの第四の婚約者候補作戦を察知してお説教コース?!


 内心パニックだけど、この場で侯爵様の誘いを断るという選択肢はない。私はひきつった顔で笑い返すしかなかった。


「侯爵様と直接お話ができるなんて光栄ですわ。貴重な機会に感謝いたします」

「いい子ね。ついていらっしゃい」


 侯爵はにっこり笑うと優雅に踵を返した。

 すたすたと歩いていく後ろに、私は慌ててついていく。


 いやマジで全然用件がわかんないんだけど!


 パーティーの場で、ホストとお客が個別に話すのはよくあることだ。

 でも、場所を変えてふたりっきり、なんてことはまずない。それは他のお客をないがしろにすることになるからだ。

 でも、そんな異例の扱いをしてまで、私と話したいってことって何だろう。


 私があわあわしているうちにも、侯爵様はどんどん屋敷の奥へと進んでいく。


「ここから先はプライベートエリアなの。護衛の子は遠慮してちょうだい」


 こっそり後ろからついてきていたフィーアを振り返って、侯爵様はほほ笑んだ。顔は笑っているけど、有無を言わせない迫力がある。


「ご主人様……」

「大丈夫よフィーア、外で待ってて」


 私が命令すると、フィーアは引き下がった。


「ごめんなさいね、どうしても完全なふたりきりで話したかったのよ」


 そう言って、侯爵様は自分の護衛も退席させる。

 シンプルなつくりの客間で、私と侯爵様はふたりだけになった。


「お話とは、何なのでしょうか?」


 困惑している私の前で侯爵様は居住まいを正す。

 そして、深々と頭を下げた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る