素敵なお姉さま

「ミセリコルデにようこそ、リリアーナ嬢」


 フランの姉、マリアンヌさんは優雅にお辞儀した。私もそれに淑女の礼で返す。


「ご無沙汰しています、マリアンヌ様」

「ふふ、キレイになったわね」


 彼女は私を見てにっこり笑ったあと、弟に向けてぷうっと頬を膨らませた。


「もう! リリアーナ嬢が来るなら、私にも教えてよ!」

「彼女は俺の客人です。姉上には関係ないでしょう」

「関係あるわよ! 私だってアルから妹をよろしく、って頼まれてるんだから」

「ある……?」


 えーと、私の身内で、その愛称で呼ばれてる人って、ひとりしかいないんだけど。


「マリアンヌ様と兄様ってお知り合いなんですか?」


 私が首をかしげると、フランがあきれたように息をつく。


「知り合いも何も、アルヴィンが魔力式湯沸かし器の事業を始めたとき、他貴族へのパイプ役を買って出たのは姉上だ」

「え」


 兄様の事業拡大が異様に早いと思ったら、そんな裏事情が!!


「アルが王立学園改革をするときも、少しお手伝いさせてもらったわ。男の子たちだけじゃ、女子部と連携が取れないものね」

「そ……それは、兄が大変お世話に!!」

「かしこまらなくっていいのよ。アルとお仕事するのは楽しかったし、私のほうでも色々利益を上げさせてもらってるから」

「そうですか……」


 ゲーム歴史の記憶が強いせいで、時々忘れてしまうけど、今のこの世界では宰相閣下もマリアンヌさんも生きている。だから、こんな風に宰相家と交流する展開だってアリなのだ。


「リリィちゃんが王都に来たら、お茶会や園遊会に誘おうと思ってたのよ……あ」

「リリィでいいですよ、マリアンヌ様」

「じゃあ私もマリィでいいわ。ふふ、アルとあなたの噂ばかりしていたから、つい親し気にしてしまうけど、よく考えたら会うのは2回目なのよね」


 マリアンヌさん、もといマリィさんはクスクスと上品に笑っている。


「茶会に誘う、というのはどういった意図で?」


 私たちのやりとりを見ていたフランが口をはさむ。そういえば、そんなこと言ってたね。


「リリィちゃんを社交界に慣れさせるためよ。普通は母親が指導するものだけど、レティシア様は第一師団長である旦那様のサポートで手一杯でしょ?」

「母は、あまり社交が得意ではありませんからね……」


 夫婦ともに、感性で生きる天才型だからねえ。

 人の思惑を読みあう社交とは絶望的に相性が悪い。


「だから、代わりに私が社交の場に連れていってあげる。もちろんレティシア様からも許可をいただいてるわ」

「ありがとうございます、マリィさん!」


 ミセリコルデの長女が参加するお茶会。それはつまり、宰相派貴族の集まる場所だ。王妃様の素敵な罠パーティーとは違って、まともな感性のお嬢様がいるはずだ。

 なんて頼りになる味方なの!

 もう心の中でお姉さまと呼ばせてもらおう。お姉さま最高!!


「うふふ、私たちが手取り足取り、最高のレディにしてあげる」

「ありがとうございます。……ん? たち?」

「姉上、何故複数形なんですか」

「あなたにも手伝わせるからに決まってるでしょ?」


 マリィお姉さまは、弟に笑いかけた。



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