婚約者候補に、私はなる!

『ケヴィンの第四の婚約者候補になる』という提案を聞いたとたん、フランの眉間にぎゅっと深い皺が刻まれた。

 うわー、久しぶりに見たな、この不機嫌そうな皺。


 でも、いいアイデアだと思うんだよね。


「私はハルバード侯爵家のご令嬢でしょ? 家柄、お金、それに実績もあるから、3人の婚約者たちから真っ先に狙われると思うのよ。でも、私はそう簡単に殺せないじゃない?」


 なにしろ、とんでもなく強い護衛を従えてるからね!

 物理フィジカルな攻撃はフィーアが、魔法マジカルな攻撃や毒物ケミカルな攻撃はジェイドが防いでくれる。


 箱入りで育てられた良家のお嬢様が、このふたりに勝てる可能性など微レ存以下だ。


「私が婚約者たちの殺し合いを防いで、フランが黒幕を探る。いい役割分担だと思うの!」

「またお前の縁談を利用するのか……」


 フランは嫌そうにため息をつく。


「何よー、クリスとヴァンの時だって、同じことやってたじゃない」

「だからだ」


 じろりと睨まれた。


「次期クレイモア伯とお見合いして姫に取られた、モーニングスター家の跡取とお見合いして、3人の婚約者と問題を起こした……見合いのたびに噂になっていたら、まともな縁談が来なくなるぞ」

「まあその時はその時よ!」

「……その時、とは?」

「結婚相手がいなければ、ハルバードの田舎にひっこんで、ひとりで隠居生活でも送るわ!」

「……っ」


 私が笑顔で答えると、フランは頭をかかえた。

 なんでや。


「前世の世界では、そんなに珍しい話でもないみたいよ? 人生、結婚だけが全てじゃないもんね」

「……そうだな」


 だからなんで、フランがこの世の終わりみたいな顔してるんだ。

 解せぬ。


「実は、ダリオに貸したお金の利息がけっこういい額になってるの。だから私ひとりくらいなら、生きていけると思うのよねえ」

「……」

「フラン?」

「……お前が気にしないというのなら、それでいい。邪魔者がいないのは好都合だしな」

「ん?」


 なんか話がつながっていない気がするけど、まあいいか。

 フランの賛成がとりつけられたのなら、作戦を実行に移すだけだ。


「まずは、ケヴィンが出席しそうなお茶会に参加できないか、調べてみるわ」

「わかった。あとは……オリヴァー王子とヘルムートは放っておいていいのか? あいつらも『攻略対象』とやらなんだろう」

「あのふたりはパスで。王子の問題は聖女にしか解決できないから、私がどうこうするのは無理。王子の問題に干渉できない以上、側近のヘルムートにも下手に接触しないほうが……」

「待て」


 フランが不意に手をあげた。ぷに、と指先が私の唇を軽くふさぐ。

 黙れ、ってことらしい。


 意図はわかるけど!

 乙女の唇にいきなり触れるのはどうかと思いますー!

 びっくりしすぎで心臓止まったらどうしてくれる!!


 睨む私の視線を無視して、フランは腰をあげた。

 そして、庭の向こうからやってくる人物に声をかける。


「姉上」


 そちらを見ると、ブラウンの髪の貴婦人の姿が見えた。

 フランの姉、マリアンヌさんだ。




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