誇り高きぼっち令嬢

 私が誘いを断ると、ふたりともわかりやすく動揺した。


「アイリスが断られるのはわかりますが、どうして私が!」

「お断りしたのは、ゾフィーだけですよね?」


 君ら、本当にメンタルそっくりだな。


「初対面で、人の悪口吹き込んでくるような子と、仲良くしたくなーい」


 ド正論で返してやる。


 王妃様が熟成させてるギスギス少女社交界だから、当たり前に受け入れられてるけど、一般社会でやったらドン引きものの態度だからね? それ。


「フィーア、誰も座ってないテーブルに用意を」

「かしこまりました」


 すっ、と滑るようにフィーアが移動した。彼女が侯爵家仕込みの美しい手つきで作業すると、すぐに私ひとりだけのテーブルがセットされる。周囲からの視線を集めたまま、私はそこにすとんと座った。

 視線も言葉も全部無視してお茶を喉に流し込む。


 うーんさすが王宮。使ってる茶葉が高級。


 序列だとか、所属グループだとか、しがらみだとか、そんな細々とした諍いが発生するのは、彼女たちがヒエラルキーに組み込まれているからだ。関わりたくなければ、そもそもヒエラルキーの中に入らなければいい。


 私は彼女たちにハブられたのではない。

 自ら誇り高きぼっちを選んだのだ!!!!!!


 私が静かにお茶を飲んでいると、少女たちは私を遠巻きにしながらコソコソと噂話を始めた。自分たちをコミュニティごと拒否した新参者をどうしてくれよう、って相談しているんだろう。


 でも、伯爵令嬢ごときが私にそんな口きいていいのかなー?

 我、侯爵令嬢ぞ?

 建国当時から続く南の名門ハルバード侯爵家の令嬢ぞ?

 父親は王国騎士団第一師団長ぞ?


 私にちょっかいかけたら、普通に家ごとカッ飛ぶからね?


 貴族子女の中で孤立している、という噂くらいは流れるかもしれないけど、気にしない!

 同世代の友達なら、もう間に合ってるもんね!

 王妹殿下と次期クレイモア伯と仲良くしている私に、『やーいぼっち』って言える貴族がいたら見てみたい。


 人とのつながりを大事にしててよかった。

 誰も友達がいない、味方もいない、って思ってたら、こんなに堂々とひとりで座ったりできないもん。


「ご主人様?」


 ふと横を見るとフィーアの金色の瞳と目があった。

 落ち着いていられるのは、彼女のおかげもある。

 実は、将を射んとすればまず馬から、嫌がらせをするならまずメイドから、とテーブルセッティングをする彼女に悪戯した子がいたんだよね。さりげなく足をひっかけたり、スカートを踏もうとしてたみたいだけど、フィーアはそれら全てを華麗にかわしていた。

 そのへんのお嬢さんじゃ、フィーアの動体視力には絶対勝てないからね……。

 改めて、こんなに頼もしい護衛他にいないと思う。


 仲間の大事さをかみしめつつ、のんびりと高級お茶菓子をつまんでいると、庭園が突然騒がしくなった。

 少女たちの視線がパーティー会場の入り口に集中する。


 何事かと思って私も目を向けると、そこに新たなゲストが登場していた。


 金髪碧眼の美少年と、アッシュブラウンの髪の騎士の子が連れ立って入ってくる。

 王妃様のただひとりの息子オリヴァー王子殿下と、ランス騎士伯家次男ヘルムート・ランスだ。




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