噂のあの子
「恐れながら……噂とはどんなものでしょうか?」
私が尋ねると、王妃は嬉しそうに笑った。
「たくさんあるわよ」
た、たくさん?!
「ええと……『お茶会で大暴れしたお嬢様』でしょ? 『11歳で領主代理をこなす神童』『東の賢者の愛弟子』に、『雷魔法の使い方を考案した異才』、『ダンスの申し子白百合の再来』、『高速計算経理の鬼』『カトラスを買い上げた金満家』『獣人を侍女として使う変わり者』『毎日お風呂に入る潔癖症』『お見合い相手をお姫様に取られた失恋少女』……」
ねえ、最後のほうはもう悪口だよね?
どんだけ私の噂が回ってんの!!!
「そうそう……あと、もうひとつ。『宰相家の傀儡』というのもあったわね」
「え」
「だって、年端もいかない子が、領主代理なんて大役をこなせるとは誰も思わないじゃない? 補佐官が全て采配していると邪推している人がいるみたいね」
「……」
ハルバードにもミセリコルデにも、どっちも失礼な噂だな!!
「こんな風に、印象の違う噂がたくさん流れてるせいで、あなたがどういう子か全然わからなくって。それなら下手に情報を集めるより、一度会って教えてもらったほうがいいと思ったの」
「左様ですか……」
「ねえ、この噂、どれが本当なの?」
王妃様は目をきらきらさせて私を見つめてきた。
いやこの噂、どれが本物とか言われても。自分が流した噂じゃねえし。
しかも何て答えても全部曲解されそうな気がするし。
どうせえっちゅうねん。
私は一度深呼吸する。
視界の端に、ずっと隣に立っているフランの衣装が映る。
大丈夫、フランが動かないってことは、私が答えられる範囲の難癖だ。
「……それらの噂は全部、嘘です」
「全部?」
「はい。噂の原因になったと思われる出来事はありますが、いずれの話も真実とは程遠いです」
私は顔をあげて王妃様を見つめる。
「王妃様、噂などお忘れください。私のことは、今目の前にいるこの私を見て、評価してください」
どの噂を肯定したところで、面倒になるのは見えている。
いっそ全部否定した上で、『お前自身の目で判断しろ』と返したほうがまだマシだろう。
王妃本人も、『会って話してみたくなった』と言ってたし。
「……そう」
王妃様は、にっこりと笑った。
顔だけは慈愛に満ちた表情をしてるんだけど、その実何を考えてるかわからない。
めちゃくちゃ怖いから、その笑顔やめてくれませんかねえええええええ!
「あなたのことが、少しわかった気がするわ」
「恐悦至極にございます」
「シレーネ、マリエル、彼女たちをパーティー会場に案内してあげて」
取り巻きの侍女たちが、さっと動きだした。
王妃様の圧迫面接はこれで終わり、ということらしい。
私とフィーアは子供むけの赤薔薇の園へ、フランと見た目が完全に大人のジェイドは白薔薇の園へと別れさせられる。
ここからは、王妃様の素敵な罠パーティー第二ラウンドである。
しのいでみせようじゃないの!!!
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