圧迫面接
王室づきの侍女たちに案内されて、私たち一行が訪れたのはバラ園だった。
バラ園といっても、ただの庭園じゃない。ハーティアの国力をつぎ込んだ、国内最大級のバラの園だ。色とりどりのバラが咲き乱れる光景は、もはや園というよりバラの森である。
奥には巨大なガゼボがあり、そこに王妃専用の席が設けられていた。
ガゼボの日陰の下には年代ものの上品なソファに座る王妃様と、脇に10名ほどの王妃様の側近たちがずらっと並んでいる。
なんだこの圧迫面接会場。
私が招待されたイベントって、庭園のお茶会だよね?
なんで入り口で裏ボスが取り巻きと一緒に待ち構えてるのかなー?!
「いらっしゃい、会えてうれしいわ。リリアーナ」
こっちの疑問なんて、まるっと無視して王妃がほほえんだ。
母様と同い年の40歳のはずなのに、ふんわりと佇む姿は少女のように若々しく、かわいらしい。第一印象だけなら、ただの優し気な若奥様である。
「ご招待ありがとうございます。お会いできて光栄です、王妃様」
私はうやうやしく淑女の礼をとった。
フランも従者たちも、それにならって頭をさげる。
「ふふ、少しびっくりさせちゃったかしら。今日のパーティーは少し趣向を凝らしてみたの」
うん、それは見たらわかる。
「今回の催しのテーマは、子供同士の交流よ。招待客たちはここで私に挨拶したあと、子供は右手奥の赤薔薇の庭に、保護者は左手奥の白薔薇の庭に別れるの。子供は子供同士、しがらみなんて考えずにのびのびと交流すべきだと思うんだけど……いつも保護者が隣にぴったりついていたら、そんなことできないでしょ?」
「すばらしい、お考えですね」
悪辣すぎてめまいがする。
建前は『子供同士の交流』だけど、要は気に入らない子供をいきなり圧迫面接で追い詰めたあげく、保護者から引き離して自分の手下の子供たちに袋叩きにさせるイベントじゃねーか!!
フランが隣にいてよかった。
自分ひとりでこんなところに来てたら、パニックになったあげくに、何を口走ってたかわからない。
こんな特殊なお茶会なら招待状に段取りを書いておけよ、って抗議しても無駄なんだろうなあ。多分『あら、疲れた侍女が説明のお手紙を入れ忘れたのね』って王妃がつぶやいて、無関係な『疲れた侍女』がクビになるだけだろう。
「……あら。私が招待したのはハルバード家の方のはずなのに、どうしてミセリコルデ家のあなたがいるのかしら?」
今気づいた、という風に王妃はこてんと首をかしげた。フランはキレイなよそいき営業スマイルで答える。
「私の出自はミセリコルデですが、現在の身分はハルバード領主代理補佐官です。社交に不慣れな主を支えるのは当然のことですから」
「変ね。リリアーナは、領主代理を降りたと聞いたんだけど?」
「引継ぎなどの雑事がありまして……まだ契約期間が残っているのです。今回の同行はアフターケアのひとつですね」
「……そう」
フランの言い訳は、嘘っぱちだ。でも、王妃の立場からでは、うちとミセリコルデの間で交わされた契約までは確認することができない。これ以上つっこんでも無駄、と思ったのか王妃はあっさり引き下がった。
「リリアーナ、顔をよく見せて。私、あなたに会ってみたかったの」
「……そうですか。光栄です」
どういう意味でですかね?
「だって、みんなあなたの噂をしてるんだもの」
どういう噂ですかねーーーー?!
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