閑話:それぞれのエピローグ5(フラン視点)
カトラスからハルバードに戻るなり、俺は城主の執務室へと向かった。
そこには、俺とリリアーナが城を離れる間執務を引き受けることとなった、後輩がいるはずだ。
ドアを開けると、予測の通りアルヴィンがデスクで書類仕事をしていた。
俺の来訪を認めると、彼は顔をあげてほほえむ。
「お帰りなさい、フラン先輩。カトラスでのバカンスはいかがでした?」
「そこそこ実りのある旅行だった。……しばらく予算関係で手続きが増えるかもしれないが、収束可能な範囲だ」
「楽しんでこられたようで、よかったです!」
「……ひとつ、尋ねたいことがある」
俺は執務室に他の騎士や使用人がいないことを確認してから質問を投げかけた。
「リリィに年齢を変える変身薬と、母親のドレスを持たせたのは、お前だそうだな?」
「ええ、そうですよ」
アルヴィンは悪びれもせずに、肯定した。
おかしいとは思ったのだ。
ディッツの作る怪しげな薬はともかく、高級ドレスはそう簡単に手に入らない。常人離れした美しいスタイルの持ち主ならなおのこと。事前にほぼ同じ体形の母親のドレスでも持ち込まない限り、あんな完成度にはならない。
つまり、あの茶番劇には、事前に仕込みをしていた者がいたということだ。
指摘すると、後輩はなぜか目を輝かせて立ち上がった。
「本当に薬を使って大人になったんですか?! 何かの拍子に使ってくれたらいいな、くらいの気持ちで持たせたんですが、こんなにうまくいくなんて思いませんでした」
「……ああ」
「兄の俺が言うのもなんですが、妹は両親の良いところを上手く受け継いでいます。とても美しい娘になったでしょう」
「……悪くは、ないんじゃないか」
実際には悪くないどころではなかったのだが。
「お前、何を考えてるんだ。あいつは大人びているとはいっても、まだ年端もいかない子供だぞ。体だけ女になって、間違いが起きたらどうする気だったんだ」
「祝福します! 俺は、妹がフラン先輩とどうにかなってほしかったので」
「……は」
後輩の言葉が信じられず、俺は言葉を失った。
どうにかなってほしい、ってどういうことだ。
どうにかってそういう意味だぞ、わかってるのか。
妹を貞操の危機に陥れた兄は、なぜかにこにこと笑っている。
「俺、家を出ようと思ってるんですよね」
奴はさらに信じられない言葉を口にした。
「おい、待て。そんなことをしたら……」
「ハルバードは大混乱ですよねえ。両親はあの通り、内政には全く向いていませんし。妹は領民から慕われてはいますが、実務能力はまだまだ足りてませんし」
「わかっているんじゃないか。それなら、何故」
「でも、フラン先輩がリリィと結婚してハルバードに残ってくれれば、丸くおさまると思いませんか?」
「……」
否定はできなかった。
実際この2年間は、リリィと俺のふたりでハルバードを治めてきたようなものだからだ。
この生活をあと10年、20年と続けることは……実は難しくない。
そうするには、あれと一生をともにする、という覚悟が必要だが。
「みんなで幸せになりましょう?」
人を堕落の道に引き込む悪魔は、時に天使のように清らかな姿をしているという。
後輩は、それはそれは美しい顔でにっこりと笑った。
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兄ちゃん暗躍の上で爆弾発言する、というお話。
なんで家を出たいかについては、次章明らかになるよてい。
続きをお楽しみに!!!
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