不機嫌すぎる相棒
フィーアの兄である、ネコミミ獣人ツヴァイを闇オークションから救い出すため、ディッツの薬を使って大人になってみたものの……会場に向かう馬車に乗って早々、私は後悔していた。
だって、目の前に座ってる相棒がめっちゃ怖いんだもん。
元々顔立ちがきりっとしてるせいで、黙ってるだけでも怒ってるように見えるフランだけど、今日ばかりは『怒って見える』じゃなくて、マジで怒ってる。
その証拠に、フランの眉間には今まで見たことがないほど深々とした皺が刻まれていた。
やばい、めちゃくちゃ怒ってる。
やっぱり無理矢理ついてきたのはまずかったかな……。
いやでもね?
ゲームを攻略した私にしかわからない手がかりとか、転がってるかもしれないしね?
フランに子ども扱いされたのがムカついたとか。
白百合を母親に持つリリィちゃんの美貌を見せつけたいとか。
いつも上から目線のフランを見返してやりたいとか。
……すいません、思ってました。
まさかその結果、フランがマジ怒りの上ひとっことも喋らなくなるとは思わなかったんだよー!
どどどど、どうしよう?
今からでも引き返す?
でも、今更そんなことしてたら、ツヴァイがオークションにかけられる時間になっちゃうだろうし。
この恰好でひとりで帰るわけにもいかないしなあ……。
ちらりとフランの顔を盗み見ると、5分前と全く変わらない表情と姿勢で、むっつりと黙りこくっている。
うえええええええ、怖いよおぅ。
機嫌を取ろうにも、そもそも、声をかけられるような雰囲気じゃないよぉぉぉぉぉ・
結局何も言えずに俯いた私の手に、ふかふかの暖かいものが触れた。
見ると、金色の瞳の黒い子猫が、私の膝の上に座っていた。猫に変化したフィーアだ。
目の前に黒オーラどころか、ブラックホールすら作り出していそうな男がいるのに、彼女は平然と落ち着いていた。
放っておけ、ということらしい。
いやあれ、放っておいていいもんじゃないと思うよ?
……どう声かけたらいいかもわかんないけど。
馬車の窓に目をやると、明かりのついたカトラスの街並みが見えた。目的地はもうすぐみたいだ。
えーと、えーと。
馬車から降りる前に話しておくことってあったっけ。
「フラン、馬車を降りたあとの身分と偽名はいつも通りでいい?」
「……ん? 何がだ?」
声をかけると、フランの視線が揺れる。
「闇オークションに本名で乗り込むわけにはいかないもの。私の偽名はサヨコ、今はお嬢様って歳でもないから、お金持ちの魔女。あなたはその従者のアマギでいい?」
これは、以前から使っている名前だ。
領主の目が行き届かないのをいいことに、地方で好き勝手していた代官のしっぽを掴むため、現地に潜入するときに使ってたんだよね。
今日みたいに急な潜入作戦の場合は、下手に新しい設定を考えるより、使い慣れた名前を使いまわしたほうが、間違いがなさそうだ。
「役回りも、いつも通りでいいわよね? 私が人の目を引き付ける役で、フランが裏工作係」
役割分担も確認しておく。
とはいえ、その役以外やれって言われても無理だけど。
「ああそれで……ん? お前が人目を引く……?」
「目立つし?」
大人になった今の私は、真っ赤なドレスを着た派手めの美女だ。立ってるだけで、周りの視線を集める自信がある。
「待て、そんなことをしたら……無意味に男が寄ってくるぞ」
「そういうもの?」
「っ……ああ」
「じゃあいっそのこと、恋人設定でいく? 今の見た目なら、違和感ないわよね?」
「こっ……」
提案すると、フランの顔がすーっと赤くなったあと、またすーっと青くなっていった。
「フラン?」
だ、大丈夫かな?
もしかして、変な病気だったりしない?
「いい……もう面倒だ。いつも通りの設定でいこう。お前は我儘な魔女で、俺はお前の後ろに控える従者だ。ただし、俺のそばを離れないこと」
「うん、わかった。フランの手を離さないようにする!」
宣言すると、フランの眉間にぎゅっと深い皺が寄った。
「近づくのは……ほどほどにしてくれ」
どっちだよ?
あとフィーア!
私の膝の上で猫っぽく体を丸めてるのはかわいいけどさ!
笑い出すのをめちゃくちゃに,我慢してるよね?
それもなんでだよ?!
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