幕間:補佐官殿の憂鬱その3(フランドール視点)
賢者殿のいなくなった部屋で、俺は大きくため息をついた。
痴話げんか。
そんな些細な言葉で、動揺した自分に驚く。
なんでこんなことになっているのか……考えるだけで頭が痛い。
今まで、リリィとの関係をそんな風に見られたことがないわけではない。
周りの人間、特にハルバードの者たちは、自分とリリアーナの縁を望んでいる。
少々年齢が上だが、仕事のできる優秀な補佐官。出自は明らかで家同士の関係も良い。
その上、リリアーナ自身がべったべたになついているのだ。
これで期待しないほうがおかしい。
夜中までふたりきりで執務室に籠っていても誰も邪魔しないのは、そういうことだ。
リリィは気にも留めてないが、外堀を埋めようと密かに活動しているハルバード家臣は多い。
自分自身、リリアーナのことが嫌いなわけではない。
計算だけで政略結婚を提案する血も涙もない男だと思われたくなくて、言い訳をする程度には、リリアーナの感情に関心があるし、命の危険にさらされていると知れば、調査も何もかも放り出して助けに入るくらいには大事だ。
だが、自分がアレに抱いている感情は、恋愛のそれではない。
もっと穏やかな、年下の子供を見守る感情。
アルヴィンがリリィに向ける、妹を想う兄の感情とほぼ一緒だ。
それに、とリリィの姿を思い浮かべる。
薄い胸、凹凸の少ない体つき。
まだ子供の特徴を残した13歳の少女を見て、恋情を覚えられるような頭の作りはしていない。
恋愛は欲をぶつける行為だ。
女性はただでさえ細く壊れやすいというのに、さらに小さな女の子に、そんなもの向けられるわけがない。罪悪感が襲ってくるだけだ。
姉が以前、5年後どうなっているかわからない、と言っていたが、それも無理な気がしている。
俺にとって、リリィは2年前のあの日、自分を救いあげた天使だ。
それは今でも変わらない。
数年たち、それなりに姿が変わったからといってその印象が変わるとは思えない。
きっと、自分は一生リリィを女として見ることはできないだろう。
ハルバード家臣団には悪いが、別の男を見つけてきてもらったほうが、話は早い。
それなりの年齢になったら、リリィと相性のよさそうな男を連れてきて逃げよう。
コンコン。
思考の海に沈んでいた俺を、ノックの音が引きあげた。
「誰だ」
「ご主人様の準備が整いました」
ドアごしに伝わってくる声は、フィーアのものだ。
「準備が整った、とはどういうことだ。リリィは連れていかない、そう言っただろうが」
「……準備できましたので」
「フィーア?」
一向に埒の飽かない返答をするフィーアに苛立ちながら、俺はドアをあける。
ドアを開けた先、廊下には美女が立っていた。
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