あっ……(察し)

「カトラスの人身売買組織については、まだ不確定要素が多い」

「シルヴァン暗殺未遂事件で、調査を無理やり中断しちゃったからねえ」


 カトラスの繁華街で、私たちを助けた時、フランはちょうど犯罪組織と接触していたらしい。他にどうしようもないピンチだったから、フランの力は絶対必要だった。でも、偽装も何もかも放り出して駆け付けたせいで、相手にフランの正体が完全にばれてしまったらしい。しかも、顔を覚えられてしまったから、身分を変えて再潜入するのも難しい。


「……補佐官様が、他領の犯罪を調べていたんですか?」


 フランが人身売買組織の調査を行っていた、と聞いたフィーアは目を瞬かせた。まあ、普通はそういう反応だよね。

 ハーティア王国において、領主の治める土地は小さな国だ。

 犯罪者の取り締まりは領主の責任であると同時に、権利でもある。

 他の領地の犯罪事情には、内政不干渉として、関わらないのがルールだ。

 もちろん、そのままだと領主自身が犯罪に溺れてしまった時に、止める人がいなくなるので、領主に何かあった時は、小領主を管理支援する立場の大侯爵家や、全ての貴族を束ねる王家などが取り締まる。


 今私たちが調べているカトラスは、建国時から続く大侯爵家。

 本来、王家以外は干渉できない。


 ハルバード家所属の私たちがやってることは、完全な越権行為なのだ。


「んー、詳しいことは言えないんだけどね、カトラスの犯罪を放っておくと国全体に影響するから、どうにかしたいなーと思って調べてたんだ」

「……それって、ご主人様の予言ですか」

「何ソレ?」


 予言ってなんだ。

 確かに、ゲームの攻略本は未来に起きる出来事を書いた予言書っぽいけど。


「ジェイドに言われたことがあるんです。ご主人様が、理屈を超越した予言めいたことを言った時は必ず当たるから、従えと」

「ジェイドぉぉぉぉ……」


 私の雑な行動に、聡いジェイドが疑問を持たないわけないと思ってたけど!

 そんな風に解釈してたのか!!


「……ジェイドとフィーアには、もう少し詳しい説明をしておいたほうがよさそうだな」

「ウン、ソウダネ……」


 こういう時って、普通ひた隠しにするもんじゃないの?

 ばれるかばれないか、がラノベのドラマになるんじゃないの?

 人知を超えた力があるって、察知された挙句に、やんわり配慮されるってどういうことなの。


「気にするな。お前が裏表のない素直な人間なだけだ」

「それほめてないよね? 思慮の浅い単細胞だって言ってるよね?」


 穴があったら入りたい。

 私が恥ずかしさでのたうち回っているっていうのに、フランはそれをまるっと無視した。


「内政干渉については、今のところ問題ない。勝手に捕まえて裁こうとしたら大問題だが、他領の情報を集める程度はどこの領主もやっている」

「調査をしていたら、たまたま、犯罪組織と出会ってしまった。そういうことですね」


 飲み込みの早いフィーアは、そう言って納得している。


「調査の結果、カトラスでの人身売買組織および、闇オークションの元締めが現カトラス侯爵、サンドロ・カトラスであることが確定した」

「リスクの高い人身売買を頻繁に行うなど、よほどの有力者が関わっているのだと思っていましたが、領主自身が加担していたんですね」


 そういうことだ。

 実は、カトラス侯が関わっていることは、すでに予言の書もとい、攻略本情報で知っていた。

 攻略対象のひとり、ルイス・カトラスとのルートでは、この人身売買問題を解決することが、メインイベントになっていたからだ。


 フランは、すっと人差し指を立てる。


「もうひとつわかったことがある。この件、カトラス侯の後ろに黒幕がいる」




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