暗殺組織はいかにして瓦解したか

「えっと……ツヴァイが売られてるのは、私が原因ってどういうことかな?」


 私は思わずフィーアを問いただしてしまう。

 これまでいろいろやらかしてきた私だけど、妹のフィーアはともかく、ツヴァイには直接関わってこなかったはずだ。


「2年前、ご主人様はハルバードに潜入してきた暗殺者集団『魔獣の牙』を捕縛しました」

「フィーアに服従の呪いをかけて、こき使ってた連中ね」

「魔獣の牙は大きな組織で、内部でいくつかのチームに分かれていたんです。各チームはそれぞれ指導者たちからお金と命令を受け取って、活動していました」

「暗殺など、大人数でやるものではない。……が、任務により人材を使い分ける必要がある。嫌な話だが、合理的な組織形態だな」

「はい、それで……ハルバードを襲撃したのが、彼らをコントロールしていた指導者たちだったんです」

「えっ」


 なんでそんな大物メンバーが、わざわざハルバードに来てんの。


「そう驚くことでもないんじゃないか? 彼らが本来遂行しようとしていたのは、宰相の暗殺。主力メンバーを総動員すべき大規模作戦だ。指導者たちが乗り出してきていてもおかしくない」

「でも、宰相閣下の暗殺自体は、うちの父様が阻止したんだよね?」


 そして、本来死んでいいたはずの宰相閣下と、フランの姉マリアンヌの運命は捻じ曲げられた。


「宰相暗殺は不可能と判断した奴らは、宰相の周りの者……姉の婚約者や俺に標的を変更した」

「えーと、言うことを聞かないと、周りの者が死んでいくぞ、っていう脅しに使おうとしたんだっけ。でも、フランはその襲撃をかわして、ハルバード領まで逃げ延びた……」

「この時点で、魔獣の牙たちの計画は変更に次ぐ変更を余儀なくされていたはずだ。いちいち末端に判断させていてはらちが明かないから、指導者チームもハルバード入りしていたんだろう」

「それを、最後の最後で父様たちが一網打尽にしたのね」


 2年前のある時期、ハルバード城の地下牢は罪人でぱんぱんになっていた。その中に、魔獣の牙の指導者たちも入っていたわけだ。


「資金と責任者を失った末端のチームは、ばらばらになりました。そのうちいくつかは、野盗として騎士団に討伐されたようです」

「そういえば、やたらと強い盗賊の報告があったわね……」


 あれはコントロールを失った魔獣の牙だったのか。


「兄は優秀ですが、その反面とても扱いにくい道具でもありました。服従の呪いに常に抗っていましたし、言動も反抗的でした。私という人質を手元に置くことで、やっとコントロールしていたんです。金も呪いを維持する手段も失った彼らは、兄を持て余した挙句に、人身売買組織に売ってしまったのではないでしょうか」

「厄介者が片付く上、逃走資金が手に入る。悪い判断ではないな」

「それが、巡り巡って、オークションに出品された、というわけね」


 一瞬、組織が瓦解した時点でツヴァイを助けられたのでは、という可能性が頭に浮かぶ。しかし、この時点ではツヴァイを連れていたチームの消息は不明だ。魔獣の牙が空中分解しているとわかっていても、探して保護するのは無理だ。


「ツヴァイを助ける方法は、簡単ね。お金を出して落札してしまえばいいんだもの」

「フィーア同様、服従の呪いがかけられているだろうが、そちらも問題ない」

「ディッツに解除させればいいだけの話だもんねー」


 フィーアの呪いが解けたのだ。同じ状況のツヴァイの呪いを解くくらい簡単だろう。クレイモア家の問題でただでさえ忙しいところに、さらに仕事をふられたディッツが忙殺されるけど。


「問題は、会場に乗り込んで穏便に落札できるかどうか、だ」

「人身売買組織については、フランが調べていたわよね。どんな組織なの?」


 私が尋ねると、フランは眉間に皺を寄せて首をかしげた。




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