真夜中の訪問者

 その日の夜遅く、私たちが泊まる別荘にクレイモア伯が訪れた。


 うちからはシルヴァンが無事なことを伝えたうえで、迎えはゆっくりで大丈夫、と連絡したんだけど、明日までは待てなかったらしい。

 貴族の作法としてはかなり非常識な訪問だったけど、私たちは彼を受け入れた。


 だって、心配する気持ちはわかるもん。


 護衛をつけてデートに送り出してみたら、鍛冶屋でドワーフ職人を拾って予定変更。その上、護衛のひとりは大通りで刺されて発見されるし、本人は他家の令嬢と一緒に行方不明。見つかったと思ったら、護衛のひとりが裏切り者として捕縛された、なんて報告を受けて安心できるわけがない。


「このたびは、うちの身内の不始末でお嬢様を危険にさらして……申し訳ない!」


 応接間に通すなり、クレイモア伯は私とフランに土下座の勢いで謝罪してきた。


「いえ、お気になさらないでください。シルヴァンは私を守るために最大限努力してくれましたし……襲ってきた中には、私を狙う悪人も含まれていましたから」

「か弱い女子を守るのが、クレイモアの騎士の務めです。やはりわれらの責任で……」

「クレイモア伯、この件はお互い様ということで。謝罪よりはシルヴァンについてお話させてください」


 いつまでも謝罪しそうな勢いのクレイモア伯を、フランが止める。

 私は事前に打ち合わせていた段取りで、部屋から使用人たちをさがらせた。ついでにクレイモア伯の側近たちにも、別室で待機するようお願いする。


「私の側近まで……? シルヴァンに何が? まさか、他の者に見せられないような怪我を?」

「安心してください、シルヴァンは大丈夫です。ですが、どうしてもお伝えしたいことがあるのです。一時でいいのでクレイモア伯にだけお話させてください」

「リリアーナ嬢がそう言うなら……お前たち、別室で待機だ」


 もともと、クレイモア伯は私たちに負い目がある。彼はすぐに側近に指示を出してくれた。

 怪訝な様子で彼らが引き揚げたあと、私は隣室に合図した。シルヴァンとクリスティーヌのことは、うちの使用人にもクレイモア伯の側近にも知らせるわけにいかないから、ややこしい。


 しばらくして、フィーアが隣の部屋からシルヴァンとクリスティーヌを連れて入ってきた。


「おお、無事だったか、シル……ヴァン……?」


 ふたりを見て、クレイモア伯の目が大きく見開かれる。

 まあそうなるよね。

 ゆったりとした女もののワンピースを着た銀髪の女の子と、男ものの服を着崩した銀髪の男の子。孫そっくりの子供がふたり同時に現れたら、驚くしかない。


「シルヴァンがふたり……いや……これは……?」

「おじい様、ボクがシルヴァンです。そして、こちらは王妹殿下のクリスティーヌ様」

「クリスティーヌ様? いやしかし、あの方は女性で!」

「彼にも、事情があるんです」


 自分の孫も同じような状況で育ててしまったからだろうか。クレイモア伯は一瞬うろたえたが、すぐに持ち直した。フランが口を開く。


「詳しい話をさせていただいても?」

「ああ……頼む。長い話になりそうだが」


 そして、私たちは長い長い話し合いを始めた。






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