これからの話をしよう

「なるほど……事情はわかりました」


 フランの悪魔の提案も含めて、シルヴァンとクリスティーヌの事情を話し終えると、クレイモア伯は大きく頷いた。


「シルヴァン、お前はそれで納得しているんだな?」

「はい、おじい様。ボクは彼と一緒に生きていきます」


 迷いのない目でシルヴァンが宣言した瞬間、クレイモア伯の目からぼろぼろと涙がこぼれ始めた。


「すまない……すまない、シルヴァン。本来守るべき私たちが不甲斐ないせいで、お前には重荷ばかり背負わせてしまって……今度はクリスティーヌ様まで巻き込んでしまった」

「おじい様……」

「女の子として、守られて生きるべきだったのに……こんなことまで」

「それは違うだろ、じいさん」


 今までおとなしく話を聞いていたクリスティーヌが口をはさんだ。


「こいつが鍛錬をがんばってきたのは、クレイモアが好きで、騎士が好きだからだろ。こいつ、俺たちと逃げてる間もずーっとクレイモアが、クレイモアがって言ってたんだぜ? 生き残るために嫌々お姫様の振りをしてた俺とは違うんだから、そこはちゃんと認めてやれよ」

「しかし……シルヴァンは女で」

「男とか女とか関係ねえよ。これからこいつは名前も育ちも今までの努力も捨てるんだ。育てたあんただけでも、覚えておかなくてどうするんだよ」

「あ……ああ、そうだな。あなたの言う通りだ」


 クレイモア伯はごしごしと涙をぬぐう。


「シルヴァンはそういう子だった……」

「女の幸せ云々もあんまり心配すんな。そこは男の甲斐性っつーか……俺がなんとかすればすむ話だからよ」


 クリスティーヌがそう言うと、クレイモア伯は一瞬真顔になったあと、破顔した。


「は……はは……シルヴァンは、存外良い男を掴まえたらしい」

「まだ立場上は女だけどな」

「よし、わかった!」


 クレイモア伯が顔をあげた。そこにはもう、迷いも憐れみもない。


「これからは、あなたも私の孫だ。クレイモアの家族として歓迎しよう。婚約が調い次第、母君ともども、我が城でお過ごしください」

「えっ……母さんも?」

「クリスティーヌ様の母君は、シルヴァンの義母となる方だ。家族としてお迎えするのが当然のスジというものだろう」

「母さんも……王宮から出られる……」


 クリスティーヌにとって母親は最大の庇護者であると同時に、最大の弱点でもある。

 彼女が王宮から逃れて、クレイモア伯に庇護されるのなら、これ以上心強いことはないだろう。


「よろしく、じいさん」

「これからは男孫として、大事に育てさせていただきます。お覚悟を」

「……ほどほどにしといてくれよ」


 フランの悪魔の提案を聞いたときにはどうなることかと思ったけど、なんとか丸く収まったっぽい?

 性別以上に大きな秘密を抱えることになったけど、悪いことにならなさそう。

 少なくとも建設的な未来を思い描くことはできるようになったのだから。

 ただただ性別をごまかし、不幸を先延ばしにしているだけよりはずっといい。

 たぶん!


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