悪代官の末路

「この小娘ええええええ!! ぶっ殺してやる!」


 ガラの悪い酒場で再会した、元ハルバード領代官ギデオンは私の顔を見るなり激高した。飲んでいた酒のカップを放り投げると、ツマミを食べるのに使っていたっぽいナイフを振り回しだす。

 私たちは大慌てで人混みをかき分けながら逃げだした。


「お前あのオッサンに何やったんだよ!」

「税金を横領してたから、身ぐるみはいで領地から追い出しただけよ!」

「それは領主として当然の措置だな!」

「税の中抜きなんて、領地を回すための手間賃みたいなものだろうが!」


 元悪代官ギデオンは顔を真っ赤にして吠える。


 いやいやいや。

 ハルバード家はちゃんと代官としての給料は払ってたから。あと、あの横領額は『手間賃』の範囲を大きく超えてたから!


「それをいちいち小娘が口出ししやがって! お前のせいで、俺は家も家族も失って、こんなところでくすぶる羽目になったんだ!!!」


 つまり、ハルバードを追い出された上、親族にも見放されて、カトラスの繁華街に流れてきたってわけね。絵に描いたような悪代官転落コースだ。

 でも、ギデオンに同情はしないぞー。

 彼が勝手に増税して私腹を肥やしたせいで、迷惑をこうむった領民がいっぱいいたんだもん。


「犯罪に手を染めていたくせに、反省の色なし。その上、大勢の前で殺意を宣言……反撃しても大丈夫かな」


 私を守るようにわざと一番後ろを走っていたシルヴァンが急に体を反転させた。振り向きざまに剣を抜いて、ギデオンに肉薄する。


「なっ……?」


 追っていたはずの子供が突然向かってきたことに驚いたギデオンは、一瞬無防備になる。その隙に、シルヴァンの剣が彼を切り裂いた。


「ぎゃあああっ!」


 ギデオンは派手な叫び声をあげて、ナイフを放り出した。その手は血で真っ赤に染まっている。あの有様では、もうナイフで攻撃することはできないだろう。


「シルヴァン、やるじゃねえか」

「ラウルたちはともかく、一般人相手に遅れはとらないよ」


 さすが騎士の子。

 暗殺者たちが訓練を受けた大人の騎士だから逃げに徹してるけど、素人、まして酒に酔ってふらふらのおじさんに負けるようなシルヴァンじゃない。


「よかった……じゃあこれで……」


 ちゃりんちゃりんちゃりんちゃりん!


 警備兵のところに行ける、と言おうとした瞬間、あたりに金属のこすれ合う音が響いた。見ると、ギデオンがまだ無事なほうの手で革袋を振り回している。

 このちゃりちゃりって音、多分中身はお金だよね?


「おいお前ら、誰でもいい! そこのドレスの小娘を殺せ! 殺った奴には、俺の金を全部くれてやるっ!!!」


 往生際悪すぎ!

 そんなところで根性みせなくてもいいから!!!!



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