一撃必殺
「次を右に曲がってください。シルヴァン様と合流できます」
「シルヴァンのほうの追手は?」
「大丈夫です。振り切りました」
ばったり出会ってしまった裏切り護衛騎士ラウルを撒くために、私はひたすら路地をジグザグに走っていた。走るのでせいいっぱいで、それ以上のことを考える余裕なんかない。フィーアに指示されるがまま、角を曲がった。
「……誰だ! って、リリィか」
その先には、彼女の言葉通りシルヴァンがいた。息はあがってるけど、大きな怪我はなさそうだ。
「君たちだけか。クリスティーヌは?」
シルヴァンの問いに、フィーアは耳をぴくぴく動かしながら答える。
「あちらの方角に。護衛騎士と一緒にいた傭兵にまだ追われているようです」
「振り切れなかったか……」
「しょうがないですよ。彼は専門的な鍛えられ方をしていません。こちらから迎えに行きましょう」
離宮でお姫様として育てられてきたからねえ。
ゲーム内でも体力が最低値な上に装甲が紙同然で、戦闘チームに入れたら即殺されてバッドエンド直行してた気がする。
ゲームより若干ごつくても、今の彼に正面からの戦闘は無理だろうなあ。
「待て。リリィを連れて傭兵のいる方向へ行って大丈夫なのか?」
「敵がひとりだけしかいないのなら、大丈夫です。シルヴァン様は、ご主人様と一緒に左に進んでください」
「おい?」
「仕留めてきます」
シルヴァンが振り返った時には、フィーアの姿が消えていた。
単にすごい速さで移動しただけじゃない。彼女のユニークギフト、完全獣化で黒猫の姿に変身して走っていったのだ。
「あ、あれ?」
「フィーアなら大丈夫よ。実を言うと、あの子はひとりで行動してるほうが強いの」
彼女の得意技は鋭い感覚による索敵と、獣化使った隠密行動、そして身軽で素早い身のこなしだ。真正面から多人数を相手にする護衛任務より、単独でひとりひとり仕留める暗殺任務のほうが向いている。
……向いてるからって、暗殺者として使おうとは思わないけどね。
どれだけ才能があっても、フィーアはまだ12歳の女の子だ。汚れ仕事をやらせるよりは、多少スキルが合ってなくても、私の護衛でいてもらうほうがいい。
「うわっ!」
シルヴァンと走っていると、すぐ近くでクリスティーヌの声がした。声のしたほうの路地を覗き込むと、クリスティーヌと、地面に倒れた傭兵と、彼に馬乗りになっているフィーアがいた。
「い……今、いきなりコイツが倒れて……この子、リリィと一緒に逃げてたよな? どうやって現れたんだ?」
まさか、黒猫が忍び寄ってきて、攻撃してくるとか思わないよね。
「ごめんなさい、手品の種を明かさないのがハルバードの流儀なの。フィーア、殺してないわよね」
「はい。意識を奪って、膝を潰しただけです」
……膝を潰したのは『だけ』って言わない気がする。
確かにこの状況だと、意識を取り戻しても追ってこれないようにする必要があるけどさあ。
「ラウルが来る前に、移動しよう」
とはいえ、こっちを殺しにかかってくる傭兵の安否をこれ以上考えている余裕はない。
私たちはクリスティーヌの記憶を頼りに、改めて警備兵の詰め所を目指した。
「そこの繁華街の先に詰め所があるはずだ」
「人が多いわね」
「っていうか、そこの飲み屋街の治安を見張るために、詰め所を作ったっぽいからな」
繁華街の要所に交番があるみたいなものなんだろうか。
目的地に近づくにつれ、通りに人が増えてきた。その上、飲み屋の店先には早くも酒盛りを始めるガラのよろしくない男たちがたむろしている。
必然的に私たちは、はやる心とは裏腹に速度を落として歩くしかなかった。
「うう……あとちょっとなのに……」
「落ち着け。ここで変な目立ち方してもしょうがねえだろ」
「それは……あっ、と」
注意がそれたせいか、私は酒場の店先で飲むおじさんのひとりにぶつかってしまった。テラス席? と言うには少々乱雑すぎる木箱に座っていたおじさんが顔をあげる。
「ごめんなさい」
「ああ、いいよ……道に足を出していたワシが悪い……」
お互いにぺこりと頭を下げたあと、私とおじさんの目があった。
あれ? この人見覚えがあるぞ……?
記憶より、かなりやつれた顔をしてるけど、間違いない。少し前にハルバードで何度も見た顔だ。
それはおじさんも同じだったらしく、目をまんまるにして私を見つめている。
「リリアーナ……ハルバード?」
「悪代官……ギデオン?」
なんであんたがここにいる?!
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