オークションカタログ
「俺がここに来た理由はコレだ」
クリスティーヌは懐から一冊の本を取り出した。全部で20ページほどの薄い本には、何やら商品のイラストと値段が書かれている。
「これって、オークションカタログ?」
「お、よくわかったな」
「うちの家に、こういう冊子つきでよく招待状が届くのよ」
ひとつの商品に対して複数の入札者が値段をつけ合い、一番高い値段を付けた者が購入権を手に入れる。それがオークションだ。落札競争自体はイベント会場で行われるけど、商品情報は事前に宣伝もかねて、カタログの形で参加者へと配られる。入札者はこのカタログ情報をもとに、購入計画をたてて参加するのだ。何も情報なしに参加して、欲しいものがなかったり、予算が足りなかったりしたら困るからね。
ハーティアの大富豪ハルバード家では、時々アクセサリーをオークションで買ってたりしたんだよね。娘の私が浪費しなくなって高価な買い物はしなくなったけど、今でも季節の挨拶替わりに何通も送られてくる。
「でも、賞品のラインナップがおかしくないか? こっちに書いてあるのは、人間のプロフィールだろう」
シルヴァンがページを指さす。
そこには、グラマラスな女性の肖像画があった。
「シルヴァン、あなたもついさっきその犯罪の一端を見たでしょ。これは人身売買組織が開催している、非合法なオークションなのよ」
「いわゆる闇オークションってやつだな」
マリクはかなり優秀な職人だったから、過去に開催されたオークションで実際に売られてたかもしれない。
「俺はそこで買い物するために、見合いを理由にカトラスまでやってきて、宿を抜け出してきたってわけだ。男の恰好をしてれば、絶対に王妹だなんてバレねえと思ってたのに……」
まさか、シルヴァン・クレイモアと激似になったあげく、暗殺者に狙われるとは思わないよね。
「お前、人を買うためにわざわざそんなことを……?」
「俺がほしいのはそれじゃない。こっちの薬だ」
クリスティーヌは、折り目のつけてあるページを開く。
小さなガラスの小瓶のイラストとともに書いてある商品説明には……。
「金貨の魔女の変身薬……? なんだ、これ」
「人間の性別を変える薬だ。飲むと、男は女に、女は男になるらしい」
「そんなものが……?!」
さあっとシルヴァンの顔が青ざめた。
その気持ちはわかる。彼女自身も、なれることなら男になりたいって、思いながら生きてるはずだから。
「君は……何故そんなものを買いに……?」
「見りゃわかんだろ」
クリスティーヌは、自分の胸板を叩いた。
「俺の体は成長期に入ってんだ。もうすぐ化粧じゃごまかしきれなくなる。そうなったら、母親ともども王妃に殺されてお終いだ」
そこはちょっと気になってた。
ゲームだとクリスティーヌは男という性別を感じさせない、線の細い『男の娘』だった。作画担当者女の子として描いてるよね? ってツッコミいれたくなるレベルの美少女ぶりだ。でも、今目の前にいる彼は、記憶より男らしい……というか、ちょっとごつい。
あと少し背が伸びて体が大きくなったら、ドレスを着ても女の子とは思われないかもしれない。
私が首をかしげている前で、クリスティーヌは腹立たし気に爪を噛む。
「本当なら、この金貨の魔女とは3年も前に契約できてたはずなんだ。化ける薬と、男としての成長を止める薬のふたつを買う予定だった。なのに……あのアマ、いきなりキャンセルとか言い出しやがって!!」
ごめん。
その注文キャンセルさせたの私。
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