悪役令嬢は必殺技をくりだした!

「ええとつまり……シルヴァンひとりじゃ判断できない、ってことよね?」


 しばらく考えてから、私はシルヴァンに尋ねた。彼女は素直にうなずく。


 まあ、普通の13歳はそうだよね。

 11歳の小娘を領主代理にして決裁権を渡すハルバード家とフランがおかしいだけで。


「じゃ、判断できる人にまかせましょ」

「え」

「シルヴァンが逗留している宿? 別荘だっけ? ともかく、泊ってる屋敷にはクレイモア伯もいらっしゃるんでしょ。彼を連れていって、鉱脈を調査させるかどうか、決めてもらうの」


 必殺!

 他人に丸投げ!!!


 現場で勝手なことができないなら、判断できる人間に投げればいいのだ。領主代理の2年間、何度この思考でフランに決裁を投げたことか!

 その反撃とばかりに、とんでもない現場作業が飛んできたこともあるけど!!


「確かに、ここで判断できるのはそれが限界だね」


 はあ、とシルヴァンが息を吐く。

 自分が決めなくちゃ、とかなり気を張ってたみたいだ。


「マリク、君の処遇は一旦ボクのおじい様……クレイモア伯の判断にゆだねる。それでいいかな?」

「クレイモアの……領主様に……ありがとうございます……!」


 領地のトップに話を繋いでもらえると聞いて安心したのか、マリクはふっとその場に崩れ落ちた。


「マリク?」

「気絶したようです」


 ジェイドがすばやくマリクの容体を診る。


「……ずいぶん衰弱しています。さきほど興奮したのがよくなかったようですね」

「ジェイド、治療できる?」

「現状維持が限界ですね。本格的に治療するなら、専門の環境と薬が必要です」

「保たせて」

「かしこまりました」


 さて、ここからは時間との勝負だ。

 シルヴァンが立ち上がると、護衛騎士に指示を出す。


「リオン、お前は先におじい様のところに戻って、報告を。それから彼を運ぶための人手と馬車を手配してくれ」

「了解しました」

「うちにも伝令を出したいところね」

「何かあるの?」

「医学の権威、東の賢者がうちの別荘でヒマをつぶしてるはずよ。お酒飲んで寝てなければ、使えるはずだわ」

「そうですね……彼の命を確実に救うのなら、師匠に治療させたほうがいいです」

「となると、ハルバードへの伝令と、マリクにつく護衛と……君を別荘まで送り届ける護衛が必要だね」

「シルヴァン自身の護衛もいるよね?」


 護衛騎士の残りはふたり。そして、ジェイドはマリクの治療で動けない。

 微妙に人手が足りてない状況だ。


「伝令だけ出して、私はここに残ろうかな」


 護衛対象はできるだけ固まってたほうがいいよね?


「それはおすすめできません」


 フィーアが顔を曇らせる。


「先ほどの店主は、ご主人様の常軌を逸した行動に驚いて逃げただけです。時間が経ち、冷静になったあとで、仲間を連れて戻ってこないとも限りません」

「動けない病人と、戦えないご令嬢の両方を抱えて、この店で籠城戦をするのは避けたいな」


 じゃあどうしよう?


「まずはリリアーナ様をできるだけ早く安全な場所に移してはいかがでしょう」


 護衛騎士の提案に、シルヴァンが肯く。


「ラウルの言う通りだね。武器職人と侯爵令嬢、狙われるとしたらリリィのほうだろうから」

「マリクのそばには、私だけ残していただければ十分ですよ。どうせ治療のために側を離れられませんし、隠れて待つだけなら少人数のほうが動きやすいですから」


 マリクの治療を続けながら、ジェイドが言う。

 彼には鋭い魔力探知能力と、師匠仕込みの戦闘回避スキルがある。逃げ隠れするだけなら、いくらでも方法があるだろう。

 シルヴァンは部屋の中を見回すと、残りの戦力に指示を出した。


「では、マリクの護衛はリリアーナ嬢の従者殿にお願いする。ボクは、グレイとラウルと一緒にリリィを別荘まで送り届けよう。ハルバードへの伝令は諦めることになるけど、どうせボクらが向かう先も同じだからね」

「護衛対象の私たちが固まって動くなら、戦力の分散は抑えられるわね」

「それに、護衛対象といっても、ボクは剣で戦えるから」


 シルヴァンが腰に差した剣をぽんと叩く。


「なるほど、戦力的には護衛対象が私ひとりしかいない計算なのね」


 4人でひとりを守る構成なら問題なさそうだ。

 そう言ってひとり納得していると、今度はシルヴァンが首をかしげた。


「えっ? ……その子って、侍女だよね?」

「フィーアはむしろ護衛よ」


 小柄で可憐な獣人少女は、笑顔で懐から刃物を取り出した。


「かわいくしてると、周りが油断してくれるからおとなしくしてるだけなの。戦ったら強いわよ」


 多分、ルール無用の殺し合いなら、フィーアがぶっちぎりで勝つと思う。



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