武器工房

「これはこれは、お嬢様、お坊ちゃま。ようこそおいでくださいました」


 私たちが貴族だと見てとった店主は、子供相手にも関わらず、上機嫌で私たちを招き入れた。店舗の中央に設けられた商談スペースのソファをすすめてくれる。

 私は、シルヴァンにエスコートされてそこに座った。


「彼にプレゼントがしたいの。オススメを見せてちょうだい」

「でしたら……こちらなどいかがでしょうか」


 商談のチャンスと見たのか、店主は奥からひときわ高そうな武器を持ってきた。

 シルヴァンの体格に合いそうな細身の剣だ。


「いい剣だね。つくりがよくて、バランスもいい」

「良いでしょう! つい昨日仕上がってきたばかりの逸品ですよ。ドワーフの専属職人に細工させています」

「どわあふ」


 思わず繰り返してしまった。ネコミミ獣人を連れていて今更かもしれないけど、現代日本育ちとしては、ファンタジー種族が出てくるとびっくりしてしまう。


「お嬢様はご存知ないかもしれませんねえ。海を渡った西の国からやってきた種族ですよ。金属の扱いに長けていて、とてもよい武器を作ります」

「柄頭に魔法がかけてあるわ。何かしら……」


 剣から不思議な魔力の流れを感じて指摘すると、店主は目を見開く。


「よくわかりましたね。こいつは土の魔法で強度をあげているんです。だから、見た目が細くても打ち合いで折れたりしません」

「なるほど……よく見たら、文字みたいな模様が彫り込まれてるわね」

「そいつが魔法のタネですな。ドワーフの古いまじない言葉らしいです。私は読めませんが」

「……ジェイド、これは読める?」


 私は、背後で黒子に徹していた従者に声をかけた。魔法使いはまじないに通じている。東の賢者の弟子である彼なら、ドワーフの言葉もわかるかもしれない。

 従者はすっと前に出ると、しばらく文字を見つめる。ぱちぱちと数回瞬きしたあと、顔をあげた。


「いえ、読めません。さすがにドワーフの文字は専門外なので」

「そう……。ねえ、こんな魔法をかけてある武器は他にもあるの? 彼とお揃いで私も似たものがほしいわ」

「かしこまりました! 少々お待ちください!」


 高価な細工物の剣をもうひとつ買う、と宣言されて、店主は大喜びで店の奥に引っ込んだ。彼が私たちの前からいなくなったのを見計らって、私はもう一度ジェイドに尋ねる。


「それで、本当は何が書いてあったの?」


 さっきの瞬きは、何か裏がある、という合図だ。

 その場で口にしなかったのは、おそらく店主には聞かせられない内容だったから。


 ジェイドはもう一度剣に刻まれたドワーフの言葉を見つめてから、口を開いた。


「助けてくれ、工房の地下に閉じ込められている、と」


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