派閥争い

「元々、宰相派ということで王妃派教師からは有形無形の嫌がらせを受けていたんだ」


 はあ、と兄様は疲れたため息をもらした。


「まだ子供の俺たちは、教師たちより立場が弱い。父様や宰相閣下より比較的攻撃しやすいということで、余計標的にされたんだろう」

「それでやられっぱなしになる奴じゃないだろう、お前は」


 フランに指摘されて兄様は肩をすくめる。


「もちろん、対抗しましたよ。派閥内で結束を強め、情報を集めて、時には王妃派にスパイを送りこんだりしてね。OGであるフラン先輩の姉君、マリアンヌ様にも助力していただきました。俺の計画はほとんど成功していたと思います」


 行き当たりばったり行動する私と違って、兄様はとても冷静な人だ。

 うぬぼれでもなんでもなく、兄様は派閥争いの中でうまく立ち回っていたんだと思う。

 でもだからこそ疑問が産まれる。


 どうして卒業試験が受けられなかったんだろう?


「卒業試験の当日、学園長が子飼いの生徒だけを試験会場へと転移させたんだ。他の生徒は置いてきぼりになった」

「えええ、それいいの?」

「学園長の弁明によると、突発的な事象に即応できる力を試すテストだったそうだ」


 いやいやいや、そんな無茶な!


「必死に学園長の行方を追って、試験会場にたどりついた時には、もう試験が終わっていた。最終的に落第した3年生は8割にのぼる」

「そ、そんなに……?」

「それはさすがに生徒の父兄が黙ってないだろう」

「もちろんみんな抗議しましたよ。うちの両親だけじゃない、宰相閣下も正式に抗議しました。しかし、学園長の支持者がその声を遮った」

「王妃か」


 王妃は、まともな政治をする宰相を消したがっている。その上、兄は彼女が大嫌いな白百合の息子だ。彼女は嬉々として嫌がらせをしたんだろう。


「彼女が学園長に賛同したことで、卒業試験の結果は覆せなくなった。さらに来年度以降のカリキュラムも変更されることになり、俺たち3年生はまた1から単位を取得しなければならなくなったんだ」

「つまり、兄様が侯爵を継ぐにはもう一度3年生をやらなくちゃいけない、ってこと?」

「ああ、そうだ。すまない、リリィ。元々お前には無茶ばかりさせていたのに、さらにもう一年だなんて……俺が学園長のたくらみに気づいてさえいれば……」

「生徒の8割を切り捨てるような行動、読み切れないわよ」


 王立学園は腐っても学校だ。

 派閥を優先して生徒を見捨てるとは誰も思わないだろう。


「フラン先輩にも、うちの事情につきあわせてしまって、申し訳ありません……」


 ずうん、と音がしそうな勢いで兄様は落ち込んでしまっていた。

 ここまでしおれた兄様を見るのは初めてだ。二度目の留年が相当にショックだったらしい。

 そういえば、兄様がつまづいている姿は見たことがなかったなあ。もしかしたら、大きな挫折は今回が初めてだったのかもしれない。


「アルヴィン、顔を上げろ」


 パチン、とフランが兄様の目の前で指を鳴らした。はっと兄様が顔をあげる。


「起こってしまったものはしょうがない。俺たちはこれからのことを考えるべきだ」

「あ……」

「幸い、リリィの奮闘のおかげで領地は落ち着いている。あと1年持たせるくらいは問題ない」

「しかし……」

「それでも、俺たちに何か償いをしたいというなら……そうだな、お願いをひとつきいてくれないか」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る